ファントム・オブ・ジ・オペラ

ファントム・オブ・ジ・オペラ
ファントム
漆黒に産まれ堕ちた
バラ色の手品師
世々にその掌から
ソプラノの女を
包み込んで凍らせ
捕われた小鳥は
モルヒネの法悦に喘ぐ
合唱の合間を滑りだす
散る 咲く
死と再生のプリマドンナたち
ファントム
仮面の下の鋭い視線
その奥に宿す鏡から
万能の幻影の乙女
現れてはきえる
非在の恋人
夜を渡る二つの影から
鮮やかな一息の混声
赤裸々に剥がされてゆく
本能の乙女
泣き 叫び
愛憎喜劇の真ん中で
あなたへ歌うオペラ
閉じた瞼から火照る涙
閉じ込めて
泣き出したかったのは
ファントム
あなた自身
結ばれることのない
名脇役
刻まれた柔らかな声帯から
届いて欲しい
光射す舞台を越えて
漆黒の淋しさに狂う
帝王(あるじ)のもとへ
ファントム
誰もあなたを
責めることは出来ない
それは夜の形
誰もが心に潜ませた
影の輪郭

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革命

革命
嘆きと苦しみの手紙を柩に入れて記憶の河に流す
忘却の彼方で
永久に歌い続ける小鳥は
空の孤独に愛されながら流星となる
愛は残酷な仕打ち
孤独こそ永遠の味方
誰にも奪われず
美しく妖しく咲く薔薇の棘
理解されない棘
それこそがもうひとりの私を護る武器
手紙が褪せて燃やされてゆくように
小鳥が囀りながら消えて逝くように
誰にもかかわらず
誰からも抹殺されてゆく
私の存在価値
大地から
世界に向かって燃え上がる
哀しみの茨の弓矢を解き放つ
時をすり抜け
最期の女王の胸を射抜いた痛みが
ショパンのピアノの旋律と共に
激しく鼓動を打ち鳴らし群集は踊り出す
アントワネットのように
ギロチン台で
愛し合いましょう
絶望と新生の淵の間から
甘く笑っては
舌を出すために
孤独が恐怖より
退屈な一生だったと
言わんばかりに

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蛍光灯

蛍光灯
明るさ四百ワット
お喋り好きな私
でもね
真後ろに
できる長い陰は
明るすぎて
見えないの
明るい私
笑顔の私
そこには
しわくちゃな
泣き顔や皺も
ひかりに消されて
つるんと剥けては
私ごと
蒸発してゆく
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捨てたはずなのに・・・

捨てたはずなのに
ひとことに昔の恋が騒ぎ出すまだ好きなんだまだ好きなんだ
ねむらないよるを偲ばせたあなたのよこに知り合いの彼
適当にあしらう筈があしらわれ宙ぶらりんに逆さに吊られ
水槽に捨てたはずの沈殿物が透明に輝く彼女と彼氏
思い出が美化されてゆく二十五時夜について語らう二人
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櫻狂(ハナクルヒ}

櫻狂(ハナクルヒ)
櫻(ハナ)に喚ばれたんだ、と少年(アナタ)は云った
(一)
春は宵櫻(バナ)
漆黒の薄衣纏し少年は
夜々に微熱を身に帯びて
春の目覚めを恐れては
右手に短刀 黒袈裟羽織り
まほろばの櫻(ハナ)に春を見る
櫻(ハナ)よ 華よ 心あらば
我が身の卑しき早春の
性(サガ)の時を御身に封じ給え
されど我が身も男子(オノコ)故
今 一度(ひとたび)の憐憫を
(二)
否 我は老い櫻(バナ)
もはや華の季節(とき)は過ぎました
妖しき言の葉薄紅の紅に宿して花弁舞う
春を忘却に沈めた櫻に何のご用意がございましょう
吹く風に抗えば命を冥府に墜ちるでしょう
黄泉路 開かぬうちにお帰りを
人が櫻(ハナ)に狂うなど
ましてや櫻(ハナ)が人に恋うなどと
(三)
春は夜
宵に酔い
月が奏でる魂の旋律
共鳴する二つの影は赤裸々に
深みに墜ちては昇りつめて濡れそぼる
幽妙な舟底は雫に溢れ
注がれる熱に鼓動は嘶き
時空(トキ)を超えて滑り出す
狂い櫻(バナ)と雄の四魂
絡み合い墜ちては突き上げ
奪い奪われ紅櫻
死と再生を繰り返し
櫻(ハナ)は満月
月に咲く
(四)
女の潮は男子(オノコ)の精を巧みに操り
尚 朱く 紅く天に向かう
男子は聖域を犯したその手で
小刀 ひとつ
自らの心の臓を櫻(ハナ)に捧げて 来世の春を誓う
【櫻狂(ハナグルヒ)
   恋し女(ひと)は華と為り
     来世の縁(えにし)を此処に結ばん】
黄泉平坂
禍事の
良しも悪しも
人知れずして
恋と呼ぼうか妖しと云うか
只、 櫻(ハナ)に喚ばれたんだと、少年(アナタ)は云った・・・
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悲しみ

悲しみ
宇宙が瞬きしている間に
地球から一滴の
海が溢れた
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不在の国

不在の国
悲しみに飽きてしまえば面倒な君ごと捨てる愛だの恋だの
どこまでも翻弄された歳月に太陽と月は もう巡らない
幸せな記憶の底に君不在 乾いた砂漠 そこが君の場
困らない 君が消えても変わっても 僕の世界は 無限に広がる

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蛇の恋

蛇の恋
男よ
あなたの肋骨から
私を造り直してください
神より近く
愛より遠い
あなたの喉仏から
二人の過ちの声が
楽園の空を切り裂く
ひとかじりの
林檎の滴から
狡猾な女が垂れ流す
淫猥な蜜
溶ける骨
絡み合う舌
蛇の恋

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煙草と栞  3

煙草と栞 3
わたし今 君に恋文書いてるの 好きと嫌いの皮肉をまぜて
辛辣な言葉もなくて私達うまくいってる うまくやってる
誰とでも指切りげんまん出来る手を憎んで泣いた日々が可愛い
まだ好きだ なんてメールが来る毎に 読んで楽しむ私は不在
難解な恋愛小詩が届く度 あなたが潜む私のケイタイ
「お前のことムカつく時もあるけれど」続きを言えない君が大好き
恋心メール受信する夜は見せてはいけない涙を送信
アイシテル電波が届く二十四時あなたの肌にアクセスしたい
一夜きり一夜きりっていうけれど あなたの夜は千夜一夜
恋してはならぬ煙草の似合う人 私は栞みたいな薄さ

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煙草と栞  2

煙草と栞 2
本を繰るくちづけシーンに栞ごとあなたを閉じる瞼が熱い
イニシャルを同じリングに刻んでは独りで嵌める親指小指
ディオールのハーレンハイトの香りから思い出だけがくゆりと煙る
悪戯にはしゃいだ日々を引き出して写真の人はさようならの君
好きですと真っ正面から言えたなら中毒になるわ煙草と君に
指が好き長い煙草を挟むよう私に触れた遠い指先
愛読者あなたが好む恋愛詩そこに私の居場所はあるの
秘蔵書に挟んだ栞押し花に色ありますか薫っていますか
あなたの目いつも虚空を見つめてるそこから私はみえていますか
秋晴れに紅葉が紅くなる前に栞に挟んだ新緑の恋

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