くちびるから 放たれたひかりが
祈りのかたちをして
誰かに 言付ける
ひとの
手のひらと手のひらを 合わせたくらい
大きさ 重さ の しあわせ ふしあわせ
その隙間に
おとなの嘘泣きが
子供の泣きじゃくりに
かわるコトバが
今すぐ欲しいのです
誰の為でもなく
自分の為に生きなさい
放たれたひかりが 指差す
完成されない道
私は 歩む
裸足で どこまでも どこまでも
力むことなく
風にすら 乗るように
足の裏
言葉は饒舌だ
裸足は寡黙だ
文字は答えを問いかけるが
足の裏はそれを踏みつけて
歩み行く
アスファルトの上の
フロント硝子の破片たち
昨晩事故で死んだ
恋人同士の形見
また、私
踏みつけてゆく
散って腐って逝く
椿の最期の吐息
また、私
じりじり
踏みつけて行く
詩とは
なんと寡黙な足の裏だ
その下の残骸
その下のくれない
下唇を噛み締め
上目使いで景色を
見つめながら
私の足の裏は
炎を踏みつける
言葉にいつも
置いてけぼりにされても
私は
本棚には棲めない
裸足のままの
足の裏でしかない
歩め
まだ私の中の
あの子が泣いてる理由が
分からない
歩め
私
自らの足で
その理由を踏みしめて
越えて行け
ジューン・ブライド
「六月に結婚する花嫁は、必ず幸せになるんだって。」
そんな宛もない煽り文句から仕組まれた
ジューン・ブライド
花嫁は純情を誇示する白百合のブーケを
青空にほおりなげ
幸せの候補者にバトンを渡す
ハネムーンの門前を
引きずる純白のドレスの裾を
上がりぎみの口角線を
たどってみれば
二次会の最終電車
帰れない男たち
路線から落ちた友人を
男手三人
プラットホームに押し上げる
くだを巻く群衆と
男たちの 吐く 吐く 吐く
四つん這いの嗚咽
ズボンから飛び出したベルトとトランクス
拳と拳 罵声と叱責
落とした免許証
行き先が分からない迷子の切符
夜を渡る巨大な蛇に呑まれた人々を
六月の花嫁は振り返らない
駅には【おめでとう】のカードを握りしめた
レースにくるまったままのキティ人形
黒い二つの猫の目だけが
夜を映して まだ
ご主人様の帰りを待っている
百足
今朝、床の上に大きなムカデが、這っていた。
私は、スリッパで、踏みつけて、殺した。
何度も、何度も、踏み続けた。
スリッパの下から足の裏に伝わる細長いふくらみが、
ベシャベシャ足に、へばりつく。
―――何度踏んでも、死なないムカデ。
(オネガイ!ハヤク、ハヤク、死ンデヨ、
イタイ、イタイヨウ…。)
痛い。
と、思った。
刺されたわけでもなく、私がムカデに何かされたわけでも、ない。
ただ、土足で家に上がりこんだだけで、
やがては、家族を咬むというあやふやな予感だけで、
咬まれたら、死ぬかもしれないという先入観だけで、
私は直ぐに踏みつけたのだ。
私が、踏んで踏んで、踏みつけて、(踏みにじった)赤黒い丸い塊を、
金ハサミで、庭に打ち捨てる。
その後、ムカデがどうなったかについては、は知らない。
鳥の餌食になってついばまれたか、蟻に集られて、黒い穴で、食いちぎられたか…
そして、私も、すぐ忘れていくだろう。
けれども、あの腸も血も真っ黒な生き物こそ、私では、なかったか・・・。