百足

百足
今朝、床の上に大きなムカデが、這っていた。
私は、スリッパで、踏みつけて、殺した。
何度も、何度も、踏み続けた。
スリッパの下から足の裏に伝わる細長いふくらみが、
ベシャベシャ足に、へばりつく。
―――何度踏んでも、死なないムカデ。
   (オネガイ!ハヤク、ハヤク、死ンデヨ、
             イタイ、イタイヨウ…。)
痛い。
と、思った。
刺されたわけでもなく、私がムカデに何かされたわけでも、ない。
ただ、土足で家に上がりこんだだけで、
やがては、家族を咬むというあやふやな予感だけで、
咬まれたら、死ぬかもしれないという先入観だけで、
私は直ぐに踏みつけたのだ。
私が、踏んで踏んで、踏みつけて、(踏みにじった)赤黒い丸い塊を、
金ハサミで、庭に打ち捨てる。
その後、ムカデがどうなったかについては、は知らない。
鳥の餌食になってついばまれたか、蟻に集られて、黒い穴で、食いちぎられたか…
そして、私も、すぐ忘れていくだろう。
けれども、あの腸も血も真っ黒な生き物こそ、私では、なかったか・・・。

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