狼煙

小さな町は大きな街に憧れて 
いつも大きな街の姿をテレビで見ていた
小さな町は大きな街が大好きだったけど
大きな街に行くと自分がいかに 
小さな町であるか知ってしまうことを恐れて
大きな街の悪口を 広報や回覧板で回した
小さな町が書いた小さな文字の注意事項は
いつも大きな街の悪口ばかりで
大きな記事にしたのは 小さな町の良い所
小さな町に住む人は 大きな街には行きたがらない
その町の公共機関という人たちが 口を揃えて
小さな町のことを「大きな街」と
大口たたいて大きな声で
目には映らないようにしていたから
大きな街と思っている人々の
造り上げたピラミッドの王様だけが
昼間に頭を抱え 夜にタバコをゆっくりふかす
(さて、この町を明日にはどんなケムリにまいてやろうか)と。
キセルから浮かび上がる巨大な街が 闇の中に
どろん、と現れ 誰にも知れずに消えてゆく

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天秤

何も持たなかったはずなのに 多分荷物は重くて
何を詰め込んだかわからないのに 大切で
手放せないまま 逃げるように出てきた都会
何をしたかったのか 私の頭の標識は
真っ白に作り上げた 大きな矢印が看板
迷って 転んで キョロキョロした顔を向けて
やっとの思いで前を向いたら 舌打ちされる
守るものは自分、ではなく、
自分の正直さ、というものだと
両腕で抱えてみると 我儘、と、傲慢に
早変わりする 人の秤
        ※
何も持てなかったはずなのに
往復切符を買ってしまう臆病者
(その理由を、聞かないでください。)
スマートフォンを 握り続ける
私の当てにならない アクセス先
(その場所を、見つけないでください。)
街には人がいないのだよと マネキンたちが
スマートなスタイルで会話して 私を見下す
ポケットの右側にいれた十字架とはぐれて 
左側のコインに見捨てられた日
身体ごとアスファルトの中に飛び込もうとした夕暮れ
ふるえるように叱ってくれたのは
ルール位置から遠く離れた、壊れた家の
弱さと優しさに泣くしかできない 私の両親

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あなた方の死骸を埋めると 私が芽を出して育っていく
アイ、の呪いはコトバと声を包んで あなた方を肥やしにどんどん伸びる
声が子守歌に変わる夜 
初めて骸の種となったあなた方に 向き合うことが出来るだろう
し、
無邪気な淋しさと燃える酷さを謳う無垢な病よ
まっしぐらに私を宿し 私を殺して逝け
私の内に立ちのぼる亡霊の顔よ、声よ
その表情と傷痕を記録させる為だけに
不純な炎が純潔の在り処に 刃を向ける

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花火

私は 地獄通りの道を歩いている
「詩人」という、重荷を下ろせば きっと
地獄通りを 通らなかったに違いない
こんなにも暗く、高潔で、淫靡な道を 
コトバだけで築き上げた 女の迷路からまだ出られない
ドクダミの花を見つけるたびに 
白い十字の傷跡を拾って 苦く舐めながら
女が抱く腕の深さに打ち震え地獄通りを振り返る
            ※          
          
こい、は 夕焼け空の暮れてゆくデパートの屋上にあった
私は街灯が灯る頃 焦げた空の残骸を拾い集めてファイルに仕舞う
待ち合わせ場所の懐かしいお喋りなら 風と私で片付ければいい
五階建ての巨塔が映し出す案内表示板はいつも一方通行で、
ショウウィンドウのマネキンたちは着飾ったまま 誰も待たない
改札口のカップルは固有名詞を持たない 男や女
最上階のベンチに座った恋人同士は 観葉植物の役目を果たすと
屋上で詩人に作り上げられ、地獄送りにされて逝く
下で口が開いている赤いアルバムに二人、ずっと貼りついたままで。
 
             ※
焼け爛れた心から見える空の星はいつだって綺麗に流れ、
やがて炎の花になる
歩き出す地獄通りを 花火の音が背中から追いかける
(仕掛けたのは誰だったのか、放ったのは何だったか
(その正体を 今ならなんと呼べたのか・・・
           
             ※
遺言状の理屈を打ち明け、打ち上げ、
花咲く炎が見えないところを通過して 胸を射抜いて派手に散る
トウキョウの花火は 激しくて、鮮やかで、潔く、
そして、ネオンより、涙もろい
        
       TOLTA主宰「現代詩100周年」寄稿作品

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核家族

家の敷居や襖の線や開閉ドアを隔てて 深い河が流れている
隣の部屋なのに、もう渡る舟の手掛かりはなくしたままだ
河の底から 十二年前に口を交わした孫の燥ぎ声が
時々聞こえてくるのが楽しみで 白い襖に耳を当てると、
孫は母親に笑いながら言う
「なあ、おじいちゃんて、いつ死ぬん?」
河の流れは速くなって 部屋と部屋の間の溝は
もう誰も埋め立てることはできない
娘である母親は
自分の老祖父の、その時が来るのを夢見ては
煩わしそうに息子に毎日語った
年を重ねるごとに部屋には一人一部屋の 
快適空間が設けられる度 
濁流の大河が部屋の周りを流れ続けた
もう誰も舟なんか作ろうとも思わなかったし、
もし舟が出来たら一部屋に一人いなくなった人から
夜の間にそっと乗せて 水に流してしまいたかったから
部屋は常に護られていた
オートロック、一人の食卓、冷暖房完備、パソコン付きベッドハウス、
まるで、用意された一人用シェルター
だからいつか 爆弾が落ちるよ
家族中で用意した大きなシェルターに似合うくらいの
核分裂を繰り返す 大きな大きな爆弾が
今日も晴れた日の どこかの空から落とされて
家族の表情は止まったまんま。

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アパート@猫一匹

スズや、スズ、と 呼べば白猫が一匹
呆けてしまった昭和の頭に 鈴の音だけでやってくる
年老いて逝く者の生きがいのために 孤独死を恐れてか
「アパート一室につき猫一匹飼育可能」、の高邁なプランを掲げる、
煽り文句は、共に死期を選べない 残酷な生命共同体世帯
スズは捨て猫
捨て猫が拾われて飼い猫になれば、又、
捨て猫を呼び込む、呼び込む、スズが一匹、一匹、もう一匹
朽ちていく頭の中で猫の鳴き声
(お前より先には死ねないね、
(食べ物も底をついた、寝たきりの私に、もうあげれるものなんて、
アパートは放火されたらしい
犯人は猫にゴミ袋を荒らされて 腹いせに焼いたという
不思議なことに住居人の死体はなかった
勿論どこから来た人か、何という名かも皆、知らなかった
焼け残ったアパートから 今日も鈴の音が鳴る、リン、リン、リン、
         、足あとだけが、夜の頭を鳴らしてわたる、、、

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喪失

もう、疲れてしまった。
美しいものは、等しくコトバにできない、ことや、
瞼を瞑ることでしか、思い出せないと言うことを、
眠らない心が捉えてしまったのだ。
夕焼けすら 同じように見えないのに
ぼくたちはキレイだね、という形容詞でくくる。
その、安易な感情の素直すぎる未熟さを、
純朴という名詞でかたずけたあと、
ぼくらはぼくらのノートに
それぞれの 夕焼けの花を描きたがる。
ああ、美しいものに、コトバはいらない。
感嘆の母音のあとにくる、コトバの喪失、
涙が落ちるまでの青い沈黙、
人、独り、沈みゆく赤い炎の背中をみせて、
その最期の閃光をあなたに受け渡すとき、
何を語ることができようか、
太陽が滲ませる 熱い水の苦さ
人が過ぎて行く時に見せた佇まい、夢の燃え殻、
そして、私の嗚咽
美しさを意味で汚してはならない。
去り行くときを止めてはならい。
コトバは失われた時にこそ、煌めきを増す。

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メガネの店で

メガネをかけた店員が私を緑のサツマイモだと言った
もう一人の店員は私のことを赤いキュウリだと言った
どの棚にも私の居場所はなく、
北海道の男爵やクイーンが
同じ棚には並びたくない、と言い出し
国産のパプリカやトウガラシが、怪しそうに
私を異端視した
私はその店の悩みの種となった
数々の異なる声に身の置き所をなくした私は
袋に詰められ小さくなって売れないまま
どんどん日増しに腐っていった
もう私自身、何色だったのか何だったのか
見分けがつかなくなっていた
店頭から排除されようとしたとき
メガネをかけてない人が、私のことを
良く熟れた黄桃ね、と自宅の仏壇に祭って
手を合わせてくれた
見えないものに手を合わす、
メガネをかけてない人の目線は
今の私に丁度いい

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哀歌

たくらみを実らせた花はもう、少女ではない
女になれば脆弱な季節から嫉妬だけを学ぶ
かなしみ、は 夜を壊し牙をむく
いつも、淋しい姿で佇んではいない、と
教えてくれた あなたの沈黙は深く
ふたりの声は共鳴を忘れた
互いが互いの詩の上に成り立つという証は
世の中から見れば、文字にできない言い訳に過ぎない
(腹を満たすのではなく、胸を浸すのです)
その声を聴かせてくれた人は
夏の交差点を渡り終えたあと 秋の分岐点で
わたくしのお腹から一本のたくらみの赤さを見て
歳月を嘆いた
忘れていた言葉を思い出しても 
時の残骸だけが 別れを奏でつづける
行く宛のない詩が 冬の風に浸される度
思い出だけが指先を赤く滲ませ
掛け違えた記憶がふたつ 青い海に流されていく

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晩餐会

パーティーには 有名な中華料理店が選ばれた
難しくて名前が覚えられないメニューたち
箸で触るだけで肉汁が溢れ出すシューマイ
自宅に独り私を待つ母に
到底食べさせてやれない、そのシューマイ
このシューマイを食べたら他のシューマイは食べられないわ、と
誰かが言った
このシューマイを食べたから 
私は当分高いシューマイは 食べなくてもいいと思った
地方都市の若い人は、私の作る「玉子掛け御飯」の話を笑った
その日の産みたての卵のことや 安い濃口醤油、 
地元のお米を砥いで御飯を釜炊きすることを珍しがった
(お客様が来たら鶏を潰すんです
(オスから殺すの、メスは卵を産めなくなってから・・・
笑っていなかった人、笑えなかった人は
たぶん、苦い醤油の味を知っている人
可愛がっていた鶏がお客さんのために 潰された人
御馳走は運ばれ続け 並び続けたけど
誰一人、「玉子掛け御飯」は 注文しない

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