ヒルコ

(狼娘のお宿は何処だ
   それは夜ともなく昼ともなく 無差別に
   数多の男と交わった女の 落とし種
   種に理念なく伸びゆく手足なく目もなく耳もなく
   思いついたことを叫ぶしかない口があるだけ
(狼娘のお宿は何処だ
   男を千人切りした女の孤児なんやからな、
   あれが色情の業の姿というもんや。
   何、放っておいたら、直ぐ死ぬわ、
   あんな見た目も丸阿呆、叫ぶしかない奇形の児。
   それにな、昨日もヒルコがまた叫びよったやないか、
   【この村な、この村なァ、もうすぐしたら、なくなってしまうどぉ】
(狼娘のお宿は此処だ
   ヒルコ、なんか気持ち悪いわ、もう、殺(や)ってしまえや。
   不吉なことばっかりいいよる忌み児やし、
   村かって若いもん居らんのに、余裕かってないし、
   もう、ヒルコ、要らんやろ、役に立てへん児やし、
   わからんよう、殺(や)ってしまえや。
   ヒルコが居ること自体、村の恥よってに・・・。
(狼娘のお宿は此処だ
   せや、ヒルコは村のこと悪う言いよるでな、
   もう、見せしめや。ヒルコが居らんようになっても、
   ウチら、いっこうに、かまわんしな。
   こんなんどやろ、海の神さんの「人身御供」ちゅうんは・・・。
   それ、ええわ、ヒルコは役立つ、村の英雄で死ねるんや、
   役立たずが、役に立つ時がきたでな、じゃあコレで
   よろしゅう、頼んます
                 ※
縛られたまま海に放り投げられ、重石で沈められたヒルコの口から
何かが飛び出した、という噂も失せて、千の昼と夜が巡り終えると、
村は大津波の口から、すっぽりと腹の中へと、しまわれていった。
(狼娘は、お宿の中だ  
   

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