青い骨

左手首に巻き付いた羅針盤が 重い
針が進むたび あなたの温度は青白く
凍える海を目指してゆく
万年筆の先を
指に刺してでも 温もりを
あなたに注いであげたいのに
あなたは 時に苛まれながら
私の体へ少しずつ 遺言状を書き写す
(僕が死んだら、海へ散骨して欲しい)
私の体に沈んでゆく
あなたの声を忘れたくなくて
喉仏のあたりを 私は緩く齧る
左手首を締め付ける 海を指した羅針盤
あなたは 早く軽くなりたいと
もう一人の自分に 憧れながら
ノウゼンカズラが 項垂れて
落ちて逝く夏を呪うように羨望する
(来年もあの花を、二人で見られるだろうか)
海は、とおい、と、うねりをあげて
私達の 今夜を飲み込むだろう
夜の海に 染め上げた指で 
私はあなたの尖骨を ペン先にして
遺言状を 二通書き終えたら
きっと 私は二度死ぬだろう
とおい、と、海鳴りは 響く
左手首の羅針盤 針は重なり合ったまま
今、息を止めた

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