ぶらんこ

ブランコを こいでごらん
ここに座って ゆっくりと動かしてごらん
ブランコがわたしを喚ぶので 
わたしは赤い夕焼けをスカートに隠しながら こいでゆく
赤い空に向かってだんだん 滲んでいったのは
わたしの中を 巡る水
スカートの下の暗い夕暮れが わたし一人を責め立てる
夕焼け空とわたしは 世界からはみ出したまま飛んでいく
ブランコをゆすると わたしの胸も小さくふるえて
セーラー服の下の平らな胸は 少しずつふくらんで
幼い痛みに芽吹いてゆく
それでもわたしは夢中でブランコを こいでいた
ブランコの振り子が 天に届きそうな頃
わたしは沈んで堕ちてゆく 大きな赤黒い太陽に向かって
真っ新な白いスニーカーを蹴飛ばし 一番星にしてくれてやる
真夜中になってもわたしは ブランコをこぎつづけた
冷たい鎖をしっかりと掴んだ手の方角から 
暗い闇が押し寄せてくる
地下のマグマが ブランコを突き上げようと 振動する
わたしは こわくて 固く熱くなる鎖にしがみつく
ブランコは 小さな宇宙を渡る船だ
ブランコのなかでわたしは 一度死んで もう一度死ぬのだ
空を渡る船を わたしはこぎつづけなければならないのだ
変態を繰り返すわたしに 
今度はブランコ自身がわたしを 前にも後ろにも激しくゆさぶる
ブランコは 逆送する時間を刻む振り子だ
午前零時の数字に消して 短針の行方をくらますたびに、
わたしは、あああああ、という 自分の文字が暗い空で 
流れては溶けてゆくのだけを知る
前にも後ろにも苛まれながら
無くしたスニーカーの片方を
もう片足で見つけなければならない距離を
噛みしめる
夜空の脇腹から剥がされると 
わたしは昇りつめていた坂を さかさまに堕ちていく
朝 わたしは決まって夜の公園で まだ独り 
ゆれていたブランコのことを 思い出すと
いつも座っている椅子を赤く染めてしまう
茜空に消えた白いスニーカー
あの靴が わたしの片割れ
真っ赤に 染まった私を揺さぶる
裸のままで 泣いてる少女

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