私を待つ

詩を待つように 私を待つ
たとえばバス停
駆け込み乗車して
時間に運ばれていく人と
置き去りにされる私
発車したバスがベンチから遠ざかるスピードで
私たちの溝はできてゆく
同じ街まであなたを
追いかけてきた情熱に
私は乗り遅れてしまったのだ
じろじろと私の荷物の中身を
透視しようとする
小賢しい人混み
私は守る
私の住民票
私だけの記入欄にいる あなたの名前
真実味を帯びた嘘みたいな名前
大切に抱えて 泣き出したのは
私があなたを追いかけすぎて
私を 見失ったから
私は 一枚で二枚の紙切れになりたかった
いつかは 名前ごと
燃やされるのだから
あなたと 灼かれたかったのに
バス停で産まれた孤児が
柔らかな詩をかくように
「私」をお待ちなさい、と
また この時刻に服の裾にしがみつくので
もう一人の私が
産声を…
発車させてしまうしかない
抒情文芸  清水哲男 選  入選作品

tukiyomi について

著作権は為平澪に帰属しています。 無断転写等、お断ります。
カテゴリー: 02_詩 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。