手紙のような

東京に来て 一週間足らずで死ぬ
入居前前日に 薬を飲んだらいいよ、と
投げ出された薬の粒を 拾い集めながら
どうしても足らない錠剤の分 あなたの都合を呪う
副作用が頭にのぼり それでも
洗濯物だけは 取り込んで
明日入居するはずだった
ワンルームの間取りに
衣装ケースや冷蔵庫の位置を示した
大きな藁半紙を 枕元に置いて寝る
ささやかや未来の夢が 見れそうで
あなたが この紙切れが
私が信じた総て だったと 泣いてくれたら嬉しい
そんなはずない
投げ出されたのは 荷物と私
荷物だった私
滲んだ希望に 私は笑顔で映らない
田舎モノが三畳個室のホテルの
一番隅角部屋で 死んでいたら
情けのある東京人は 「東京を汚すな!」
と、いい
情け容赦ない東京の風は 私の身分証明書だけを
黙って 抜き取るだろう
あの人は 言った
詩集は遺言なんだ、
その時、その時にしか、書けない遺書だと
私は今 遺言という詩集を
叫んで書いています
これは詩ですから 虚構です
ただ、枕元に置いている
冷蔵庫や洗濯機 衣装ケースの配置図も
詩集に入れてください
そして願わくば
明日 新居に届く お揃いのお茶碗と箸のこと
一つでは 用が足せない可哀想な
使われないモノたちのことを
遺言という詩集に 載せてあげてください
私はそのぺージで あなたのことを 見ています
さよなら 私たち

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