晩餐

晩餐
確か猫の縄張り争いの鳴き声か
犬の不安定な吠え声で
三人は真夜中に起こされたと思う
銘々が空き巣の心配や
戸締まりの確認をし終わると
暗闇からにょきっとでてくる
手を気にしながら
小さな電気ストーブに身を寄せ合い
そこだけをぼんやり光が照らし出した
父は蝕まれてゆく肝臓を
新鮮なレバーで食べてみたいといい
母は心臓に入れた電池を取り外して
ハツにして精をつけたいという
私はキャンバスに色をつけて
食べて生きて行く話をした
三人が各々
言葉を飲み込み
誤嚥なしに噛み砕き
耳から材料を取り込み
頭で味わっては
互いのレシピの奥義を
聴きながら笑った
もうこんな美味しい食事に
ありつけないことも悟った
朝日が昇る前に
父は闘牛士になって
極上の生レバーを手に入れたいとスペインに
母は生き肝を食べたいと
出刃包丁と刺身包丁を持って
鬼婆の弟子入りに
私は絵に描いた餅を探しに街へ出かけた
誰も帰らない家に
あの晩餐のレシピだけが
灯りをつけて
待っていた

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