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2009年07月10日

影, Shadow(E・Cranston訳)

          影  <クレーの”冬のイメージ>より
                                             水野るり子

       雪が一日中降っています
       子どもが窓からのぞいています
  

       木は貝類のほのぐらい夢のなかから
       ほっそりと身を起し
       さびしい夢の触手みたいに
       吹雪の中でゆれています


          〈ゆきの底には
          大きな水色の貝が死んでいるよ……〉 


       鳥は銀のほうきの一閃で
       翼と足をもぎとられ
       まっ白い調理場へ
       さかさまに投げこまれていきます


          〈おかあさん
           おかあさん
           ぼくを助けて……〉


       灰色の分厚いカンヴァスのおくへ
       子どもの声が吸いこまれていく夕刻


       一粒の涙が
       大きな黒い影をひいて
       空の深みへ落ちていくのです


                   Shadow -after Klee's 'Image d'hiver.'-

It's been snowing all day
A child is looking out a window


Trees lift slenderly
from murky dreams of shellfish
wavering in the blinding snow
like lonely antennae


<Down deep under the snow
there's a big, blue clam that's lying dead...>


Wings and legs swept off
in the flash of a silver room
one by one the birds
are tossed upside-down
into a spotless white kitchen


<Mother!!
Mother!
Help me!>


The child's voice
is sucked into a thick, gray canvas
in the evening


A single teardrop
trailing a huge, black shadow
falls into the depth of the sky



    

投稿者 ruri : 2009年07月10日 10:40

コメント

透明な痛みが、伝わってきました。クレーのその絵を見たことがありませんので、実際に降る雪からイメージしてみましたが、確かに、降る雪には、浄化の作用とともに、「生」の果てを感じてしまいます。とても共感できた作品でした。

投稿者 青リンゴ : 2009年07月20日 07:09

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