岸壁の上に砦
打ち砕く
女のヒステリー
荒波を見下ろし
包括する空と海
たとえるならば
私の灯火
哲学より深く
恋愛より激しい
あなたの身体は
そんなにも
細いのに
砦に差し込む
日差しは
暴力的なほど
私に優しい

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

再会   〜或る女の為に〜

再会    〜或る女の為に〜
指で弾くような恋をして
泡のようにふくらんだ蕾のままの私
黙って剥がれないマニュキュアを
そっと塗る
この指先に点る灯りは
誰にも触れさせない
指先から身体の芯まで
発光する流動体を
揺らめく炎に変えて
旅人の帰りを待ちましょう
邂逅を一陣の風に今は攫われても
春雨が別離の涙を溶かしてくれる
春 雛罌粟を一輪ください
花言葉は純愛
さらば恋人
されど恋人よ
私は歓んで貴方の礎となりましょう

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

布団

布団
慈しむような嘘で
温められ
抜け出せない私を
抜け殻にした
快楽部屋の牢獄
私は私の夢を
毎夜咲かせては
腐らせ
咲かせては
腐られ
干さなければ
ならなくなったほどに
悪夢は染み付いて
今も まだ
一緒の布団で
眠っている

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

ミエナイチカラ

ミエナイチカラ
見えない引力で二人は
繋がっているのに
春嵐の花びらにかき消されて
彼は貴女に気づかないで
今日も明日も明朝体を
打つでしょう
互いがS極とN極ほど
正反対でありながら
強く惹かれ合う
その磁力に明朝体もペンもなく
彼の目には裸の女が独り
言葉なく真夜中過ぎの
引力に抱きしめられるだろう

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

小詩  四編   3

小詩 四編  3
【目眩】
嘘のような誠が
まことしやかに
うそぶいて
三億年から
地球を廻す
嘘が誠で誠が嘘で
愛と正義が見つからなくて
兄弟人類
まことしやかに
目を回す
【電灯】
僕の中に
ホタルの下に
君の芯に
灯りが点ると
よその子供が
たくさんよってきて
笑顔の明るさ
四百ワット
【眩しい】
あなたの鎖骨から流れる
一滴
【指輪】
あなたが
薬指に噛んだ
歯形が
痣になったまま
私を赦さない
カテゴリー: 02_詩 | コメントする

こぶし

こぶし
五分咲きの こぶし一本(ひともと)山裾に 握りし冬を虚空へ放つ
こぶしより放たれた冬の塊(かい)ひとつ 溶けて空の泡となる

カテゴリー: 06_短歌 | コメントする

母子像

母子像
私がお腹の中にいるときに
母が一枚の
絵を描いていた
柑橘系の匂う顔彩を
指で取っては
子宮の辺りに
私の表情を笑顔に描いた
私がお腹の中にいるときに
母は一枚の絵を描いた
自分の骨を砕いては
白いテンペラ絵の具にして
私の肌を色白に染めた
けれど
それはとても酸っぱい記憶
私は檸檬と母の骨を
かじりすぎて
血塗れの罰を受けた
罰に泣き濡れる私を
産湯で洗って
母は初めて
自分の絵が最高傑作だと
微笑んだ
母親はお腹に子を宿しては
母子像を描く
その腕(かいな)に
おしっこを漏らしながらでも
飛び込んでくる
乳飲み子の
夢みながら

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

青空から涙

青空から涙
青空を折りたたむような
終い事に追われ
広げた風呂敷も
今となってはたためない
こびり付いた友情を
優柔不断と殴り書き
サヨナラ
と 一言書いた紙飛行機
青空に向かって
飛ばしてみたら
たちまちの曇り空から
大粒の涙が降ってきて
私が慌てて折りたたんだのは
あなたからの
最後のラブレター
だったのかもしれない

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

ひとこと

ひとこと
私を見守ってくれた人
私を泣きながら憎んだ人よ
頑なにして繊細
潔癖で完璧主義
口下手で手も握ってくれない
多くの人に慕われても
孤独だと言い張る
リア友よりもネット友人に愛を売る
上辺だけのおべっかと愛想笑いの中
生き抜いてきた人よ
そんなあなたをずっと温もりが伝わるまで
抱きしめてあげたかったのだけど
生憎私は生まれながらにして無神経
厚顔無恥は得意技
あなたを見つめ続ければ被害妄想も関の山
歩み寄れば喋りすぎ
あなたに本当に言いたかったこと
(もう 我慢しないで泣いてもいいんだよ)
って素直に言える可愛い女になりたかったの
たったひとこと
たったそれだけ
あなたに言いたかった
私は来年空に還るかも知れないけれど
いつか思い出して欲しい
そう
例えば来年
菜の花が黄色く色づく頃にでも
あなたを愛していたことを

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

しみ

しみ
私たちは言葉を蹂躙する
無形の言葉を注ぎ込み
器の中にシロップを混ぜる
ベッドの上の揺すられる裸婦
握ったシーツに手汗が沁みゆく
(汝 姦淫する事なかれ)
泉に指を差し込こみ呪文を囁くと
秘密の扉は海底から開かれる
あなたが満ちる
頭が白濁する
戒めがしみこむ
(汝 姦淫する事なかれ)
蝋燭が戴冠する炎に過去のフィルムたちが
セピア色に染まってゆく
蝋はしみこむ
炎は続く
私を溶かして透明にする
声も指も涙も嘘も
絶頂の哀しみに身を浸す
(罪なき者は この女を石にて打て)
私の五臓六腑にしみこんだ炎は
一夜の夢の灰となる
私は夢の残骸を拾う
ショーツの底に溜まった苦い潮
戻れない女の性(サガ)
(我も又 罪人なり)
私たちは言葉を蹂躙する
過ちの芳香(におい)
心裏腹 体が覚えた逢瀬の
うれしみ
カテゴリー: 02_詩 | コメントする