捨ててしまいたい
あなたとお揃いのペアリング
忘れてしまいたい
私だけを映していた瞳
封じてしまいたい
色とりどりのラブレター
燃やしてしまいたい
あなたまみれの日々の私
送り届けたい
配達人が間違えて
隣のポストに入れた
手紙を
ひとことだけ
じゃあね
闇の告白
くちづけという名の枷で狂わせて
滴る雫 溢れても離れず離さず
絡まった舌 噛み切れるように愛しても
尚余りある激愛の渦に
我 狂女となりて
狂人廓(くるびとくるわ)で
あなたを待てば
吐息は罪に
忘却は彼方に
千夜一夜の夢現は
闇への餞 極彩色に
イチゴジャム
お父さんとお母さんの間に
イチゴジャム
拾いなさい
そして捨てなさい
粗末にしてはいけないだろう
お父さんとお母さんの間に
飛び散った
赤いジャム
わたしが棄てたのは
二人の間で
泣きたかった
イチゴジャム
瓶には戻らない
イチゴジャム
産地も定かでないジャムを
メーカーのない瓶に
瓶詰めにして
わたしの手が真っ赤になり
ベタベタと未練の
てのひらを差し伸べるように
わたしに始末される
赤いジャム
わたしはその瓶を
月も星も知らない夜
桜の木の下に埋めた
狂い咲きの桜は
薄紅色に最期を彩り
散っていく
ほんの少し
イチゴジャムの
薫りを残して
螺子
寝ている時間が長くなった
父の螺子が緩んで
肝臓から穏やかに血は流れ
肝機能は停止状態
寝ている時間が長くなった
母の螺子が錆びて
筋肉の凝縮にから激痛
ペースメーカーの心音は
時折 静止
寝ている時間が長くなった
私の螺子が横に倒れて
私の首
薬物漬けの注射器の穴
いつしか沈黙
独りがため息を吐き出し
独りが饒舌に罵り
独りが上手に雲隠れする
まだ生きていたいというわけでなく
まだ死にたくないだけです
人が死にたがるのは上手に生きられないのではなく
自由に生きられないからです
あぁ 誰か螺子を元に戻してくれませんか
緩んで 泣いた顔になる父の
錆びて 動けなくなる母の手の
傾いて 口から食べ物をこぼす私の
螺子を正しい方向へ強く強く回して下さい
朝 目覚めたなら朝日に向かって
おはようございます
と 弾む声で
家族が笑顔で動けるような
回り続ける螺子を
三本だけで宜しいですから
ケイタイ
暗闇に 携帯の灯り チカチカと 目を刺す孤独 冷える指先
人恋し 携帯叩く 親指の 先から先へ あなたは消えて
教えない あなたにだけは 教えない メルアド メル友 今の顔さえ
会いたくて 無言電話は 真夜中に かけては消して かけては消して
声すらも 昔のままの 君なのに 今は遠くの マネキンの口
お揃いの ストラップをした 王冠と十字架が隔てた 貴族と愚民
携帯の灯りだけのみ あなたとの 距離を縮める 胸のともしび
充電器 熱くなるほど 君慕う 火傷をしても 寿命が消えても
過去の傷 見せるくらいの恋をして あなたは捨てた 赤い携帯
月美