川のほとりで

川のほとりで
川のほとりで
私は石を積んでいます
或いは意志という言葉の危うさを
並べているのかもしれません
あなたは川のほとりを越えたのだから
もう会うことすらないのでしょう
未来の記憶が正しければ
あなたは確か
白装束に薄化粧
薄い紅を引いて箱に入った筈なのに
川のほとりで裸にされて
美しいまま 踝を水に浸して
その川を渡ってゆきました
私は川のほとりで石を積む
あなたの意志を受け継いだ
塔を築いて見せたくて
おかあさん…
寝息が聞こえません
今夜 あなたは川のほとりを振り返らずに
渡って逝く姿を私は見ています
私をおいて
そんなに幸せそうな顔をして…
「お互い生きることにつかれたね」

ひとこと 強く言い残した
あなたの意志を引き継いだまま
完成できない塔を
築けないと知りながら
川のほとりで 石を積む

詩と思想1・2月合併号入選作品

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東京温度

東京温度
多摩川の水温は 多分温かい
不忍池の蓮の花は 年中色褪せない
銀座の画廊には おそらく辿り着けない
駅から駅へ 連鎖してゆく人々の
声を頼りに その表と裏を嗅ぎ分けながら
四方八方からのびる
黒と白のスクランブル交差点の真ん中で
私は
智恵子の見た空を見る
赤信号になる前に
私は私の東京行きの切符を
再び握りしめ
固いアスファルトや敷き詰められた
赤銅の道路を踏みしめて
柔らかな関西弁を履いて歩む
冬になる東京の街で
「阿多多羅山はどこですか?」
なんて聞いたら
「ここが阿多多羅山、ここがあなたの故郷(ふるさと)。」
と 答えてくれる人を探して
やって来たことは
東京駅で買った
ごま玉子と私の秘密
さよなら 東京
そして
ただいま
いつか第二の故郷にしたい
温かな
光と影の充ちる街
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疑惑

疑惑
真っ黒い木々の影の中をさ迷うように
真っ赤な夕立の雲間から黒い雨粒が
車窓を叩きつけるように
走りゆくバスから
移ろいゆく黒いものたちを 目の当たりにしながら
避けることも 拭うことも 取り払うことも出来ず
私は逃げるように
走り去る 風景に
黒く 追いかけられる
赤黒い夕立雲から
紫の雷が 空を裂いて
私は私を 試され 裁かれる
さっき 喋っていた友人の笑顔が
鏡にしか映らない
まるで
模写された黒い鉛筆画のように
ものひとつ 言えなくなって
額縁に入れられたままだ
どんなに
手を差し伸べても
あなたの肖像画は
届かない赤い空に引っかかったまま
私を 見下ろしている
狭い枠の中から
美しいモナリザの微笑を
裏返したような顔で
私を
白い目で 追い詰める

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手紙

手紙
「私はコトバで 人ひとり壊しました
もう 誰も傷つけたくありません。」
封書された手紙から
嘘の匂いが漂って 開封後には煙にまかれた
あなたは 余所行きの横顔で
ペンをしっかり 握ったまま 離さない
今も まだ
同じコトバを 手紙に認(したた)めている

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君が全てだった日

君が全てだった日
君の好きな赤ワインを買ったんだ
コルドンブルーは 
高すぎて いつかの夜に
染まってしまったけど
アルコール好きの君のために
飲めないトロを買ったんだ
クリスマスプレゼントは
ここに残しておくよ
僕はまだ
飲めないトロや
鬼ころしや
入らなくなった薔薇のリングを
並べては
居なくなった君に
渡せないプレゼントを
まだまだ 詰め込んでいる
ここに 置いておくよ
君が見つけてくれるころ
ワインは熟成されて
涙のような水に
なってしまっていても
君の好きなものだけ置いて逝く
そして 君が最も嫌った
この文字ですら
望まれないまま
塗りつぶされても
君を愛していた日々は
まだ ワインより
赤いんだ

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 パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間もひとり遊びをしている子供がいた。
 台車の棒にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。
 どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。
「おばちゃん、コレ開けて。」
 ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの、丸いボールの蓋を開けてと言う。
「ありがとう」
 女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。
 夕日は、傾きかけていた。
 ”この子の親は、どうしているのだろう・・・。”
 そんなことを考えていたとき、それを見ていた私の母が、
「あの子は、強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」
と、言った。
その時、女の子の母親らしき人が、
「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!」
と、女の子の手を、強く引っ張る。
 その子は母親の大きなお腹を擦っては、
「赤ちゃん、赤ちゃん。」
と、言い続けた。
どうやら、母親は、妊婦らしい。
そして、換金所で働く母の話では、毎週二回、土曜日曜、女の子は換金所の前で、遊ぶ。
   【孤独から強い子になる。】
 母の一言が、頭の中でリフレインする。
 
 果たしてそうだろうか・・・?
 今度は赤ちゃんが生まれるというのに。
 赤ちゃんが産まれたたら、母親は姉になるその子の面倒までみれるだろうか。
 幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければよいのだけれど・・・。
 その子も寂しい。私もなんだかやるせない。また、パチンコでしか満たされないその子の両親すらも。
 
 いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。
 夕日はもう、とっくに沈んでしまったというのに。
 こぼれたパチンコ玉を見つめながら、
少女は自分にしか分からない唄を歌っている。
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冬の隙間

冬の隙間
冬の隙間
スマートには
生きれません
私はいつも
泥だらけの長靴を
履いているからです
偉いことなど分かりません
指先の感覚だけが
頼りです
笑われてなんぼです
けれど
自分の笑顔には
胸を張りたいじゃないですか!

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ひとつだけ

ひとつだけ
ひとつだけ
赤い花をひとつだけ
身体に隠した赤い花
ひとつだけをプレゼント
あなたのナイフで
花占いの遊びがおわっても
もとには戻らない
女の子の色
ひとつだけ
大切に契られた
私の身体の初めから終わりを
確かめながら
あなたは数える
私の忠誠心
涙を隠して
ひとつだけ
赤く咲く声
夜を裂く

ひとつだけ

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重ねる

重ねる
紅蓮の炎に燃え立つ
昼間の怒りを
黒い夜で鎮める
乾いた瞳に涙
汲み上げた水で
朝 顔を洗う
日が昇り太陽が
身体を焼き焦がす
日が沈み
濡れた風に身を晒す
囲まれた枠の中で
人生模様が
重ね塗りされて
濃さを増す
昨日より今日
今日より明日
怒り 悲しみを塗りつぶし
喜びを笑顔で照らしだし
一喜一憂の彩りの
重ねながら
人は
自分だけの絵を
完成させてゆく
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樹海の輪

樹海の輪
カラカラと糸車を誰かがまわしている
その糸車の糸に多くの人の指が絡みつき
血塗られた憎しみの爪をのばしたり
いびつな恋敵の小指たちが
ピリピリと過去の妄念に反応して
親指は絞め殺されるように働きながら
天に一番近い中指に嫉妬しながらも
糸を燃やそうとする
カラカラと糸車はまわる
それは乾いた土地であり
それは渇いた喉元であり
蜘蛛の罠に引っかかった蝶が
食いちぎられていく羽の墜ちる音(ね)
最期の 悲命(ヒメイ)
   *     *
  (カラカラカラカラ・・・)
   *      *
さっきから大きな毒蜘蛛が樹海を編んでゆく
その下を長い大蛇が這ってゆく
細かい切れ間から もう 青空は望めない
蛇の腹の中で元詩人(ゲンシジン)たちの群れが
溶けて泡を吐く
見えない空
地上にない文字
樹海にはそうゆうものたちが浮遊して
死人たちがそれらを夢想して
この樹海を成立させているのか
乾いた音だけが響いてくる
    
    *       *
  (カラカラカラカラ・・・)
    *       *
誰かが糸車をまわしている
けれど
その糸にしがみついた多くの紅い情念たちが
歯車を狂わせてゆく
糸車をまわしていたのは誰だろう
それは 樹海をでっち上げた白い骨の妄念
散り散りになった散文詩
痩せた木の葉たちが 風に吹かれながら
くるくる回り続け
重い陽差しの切れ間を脱ぐって
やがて 土に還る
      (カラカラカラカラ・・・)
(カラカラカラカラ・・・)
     神は
      呼吸をするのを
         やめたらしい。  

      ※ 詩と思想新人賞2012年 第一次選考通過作品

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