単細胞

本能だけで生きている
あられもない自分のこと以外知る由もない
けれど真ん中に込み上げる淋しさについて
幾度も躓く
単細胞は一つであるということ以外何も持たない
【自分でいる、自分がある!】
当たり前の事を言いまわる
むき出しのバカの自由(それでいい)
淋しさは淋しさを呼ぶ
やがて卵子と結合し 
一体感を得た途端に分裂が始まった
見る
触れる
聞こえる
感じる
味わえる
単細胞は五感をフル活動させ
多細胞で固められた人間組織として歩き回る
学んだ
体験した
人付き合いも覚えた
疲労した
沈まない多くの夜に目を凝らし
陰りのある朝の中を歩き続けた
なのに
学べば学ぶほど
人に出会えば出会うほどに
単細胞は 淋しくなった
単細胞は
賢くなりたかった
勉強したかった
そして 偉くなりたかった
しかし組織は管理と監視を続け
同じ組織の中で生きる単細胞同士でも
裏切ったなら 他愛もなく壊死させた
自分が息継ぎをするためには
相手の息を止めるしかない
疲労し老い、追いやられていくものたちを
単細胞は眺めるしかなかった
真ん中の肉を削り取るような隙間風が
どんどん通過していく
その風に運ばれていく
夥しい自分であったものたちを見送り
そしていつか自分も
そこにいくということを知っていた
単細胞が歩いて、歩いて、学んだことは 
これ、一つ
空を見上げて
【自分でいる、自分がある…!】
昔なら簡単に言えた言葉に押しつぶされて
バカみたいに青を滲ませて彼は泣いた
        *
頭上の空はどこまでも高く、広く、
単細胞が生まれた時のそのままで…。

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