箱舟

箱舟に私たちは乗せてもらえないという
箱舟に乗る人は
あらかじめ定められているという
同じ話をしに 毎度毎度 
家のチャイムを鳴らす
熱心な伝道者よ
その話は家の外でしてくれないか
この家は箱舟のように立派でもなければ
空飛ぶ仕様でもない
偉大なカタカナの名のつく人が造った造形物でもない
デカイ台風が一発来たら 瓦が飛んで粉々になるだけの
素人仕立ての壊れ物
偉い言葉など何一つ残せなかった父が 家族のために建てた家
その父に騙されて結婚などしてしまった母の家だ
そして黒い煤ぼけた古い仏壇に位牌が並ぶ先祖の住処だ
人の内にいる鬼が指差し決める良い子、悪い子、間の子 
選別しながら 私の家にも不審な指の音を届ける
「カミサマはなぜ、人を愛されずに人を裁かれるのですか」
という問いを 箱舟に乗せて玄関先から流して見送る
私たちの居場所は 
カミサマの舟から 一番遠く
父の てのひらから 近い

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