不在

夕暮れ時の寒い裏通り
透き通るくらい引き伸ばされた薄軽い 
ビニール袋の中には食材と
もう片手には人の身を覆い隠せるほどに巻かれた 
トイレットペーパーを持ち
返事のないアパートに帰る
        ※
生活は
口から入れるものとその先から出るものを
拭うものがあれば
トイレで流せばやり過ごせる
毎日は、つまらない、それでいい
詰まってしまえば
見えないところまで見えてしまうだろうから
あとは目を瞑るだけ
眠ってしまえば気が付かなければならなかったことも
やりすごせるはず
        ※
   それだけ簡単なことを
   やり過ごせない暮らしの中で
   トイレで毎日流していたものが  
   洗濯槽にこびり付いていたり
   流し台から覗いていたり
        ※
眠ってしまえば
知らないふりをすれば
やり過ごせることが
できないとき 私は不在
        ※
朝、ぽつんと ひとり置手紙
滲んだ走り書き、一行のゆくえ
「私がわたしを生きられないなら私から出て行くだけ」
        ※
一行の、その先に運ばれて 
わたしが私に手を振った

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