冬の山

この冬の途轍もなく 
淋しい苛立ちのようなものを
陽に翳してみると 詩にならないか
胸の真ん中を刃で抉り取った
凍えた塊のようなものを 
お湯で洗ってみれば
言葉が染み出てくるのではないか
でもそれは ひどく恐ろしいこと
千年万年降り積もった山頂の雪が
一気に雪崩落ち 山の形を失わせるほどに
恐ろしいこと
人は涙ぐんだ山を見て 「山」とは呼ばない
山頂に冷え切った 夥しい怒りを抱えて
胸の真ん中にある修羅の道すら明かさずに
山は山の形をして 山のままで 陽に挑む
千年万年降り続ける雪のことなど
誰にも告げず
枯葉一枚にも愚痴をこぼさず
この冬一番の途轍もない淋しい苛立ちすら
武器にして
山は今、春の空へ 
沈黙を 突き刺す
抒情文芸選外佳作

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