圧力鍋

圧力鍋の中で椅子取りゲームが行われていた。
「誰もその椅子に座りたいのだ」と言い出したのは
課長補佐だった。
「トレンドとブレンド間違えちゃいけないよ」と笑ったのは
有閑マダム。
三ツ星だか四ツ星だか五ツ星が、並んで流れる店のシェフに
「おいしいものを作ってちょうだい」と、命令したのは
女営業部長。
予習復習を済ませた子供たちは、ナイフとフォークを
光らせながら、夕食を待った。

けれど、
椅子は一つ。
一人しか着席できないディナータイム。
圧力鍋の中には椅子は一つしかないのだ。
おそらく御馳走も、一人分しかない。
一流シェフは主流の料理を一流食材で作ったし、
時間には十分間に合ったのに、誰も椅子には座っていない。
贅沢を極めた料理を「好き」とも「欲しい」とも言うことなく
ゲームに疲れた全員が干からびた声をあげて
「水をくれ」と掠れた声で叫び続けた。

鍋は、
圧力鍋は、倒れた人間を食材にして
また、新しいゲームのレシピを考える。

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