足並み

 私はカルピスのいちごオーレの底にたまった沈殿物。
五百ミリリットル入っていても果汁は一パーセントにも満たない。
濃いピンクのふりをしても、先生たちは私のことを講堂に響く大きな声で、赤点、ギリギリだったという。そういうことは“だいたい”で、いいらしい。
 私の個人情報が薄汚い口髭の男から、交流会館のキレイな受付嬢に銀行振込をされていく。“だいたい”の、料金で。
 赤いベストの黒い丸渕眼鏡のおじさんは封筒を大事に抱えてNPO法人行きの切符を窓口で買う。行先は白く一人。帰りは黒く独り。もう乗客席に座る足も、持たないままで。
 私が得体のしれない沈殿物だった頃は珍しがっていたのに私が赤点ギリギリと分かったら、みんなそっぽを向いていたくせに、私のIDを知った途端に手を叩く人と、水をかける人。
 「地域はそういう仕組みになっている。」ということを教えてくれた人は独り、黒い箱に入れられたまま、口を開くことはなかった。
                 

──と、いうことで総会は開かれた。理由もなく会議には老人が選ばれた。
おせんべいも割れない歯で、するめをしゃぶるだけの舌で、一体どんな話し合いをしたのだろう。
知らない町の交流会館で、そんなつぶやきを書いている、私に、よく似た私を見たよ。
故郷は竹藪の中に消えたのに、そこが私の赤点の出発点だったなんてことは、交流会に参加できなくて、会議室の隅の暗室に詰め込まれた寂れた椅子が知っている。
(座る人もいなくなったら椅子って誰が呼んでくれるの?
竹藪の中に放り込まれた木造椅子も、そういったら壊れていったのに。
 会議室はハクネツしているみたいで、喉をカラカラにしたペットボトルたちが並んでは、すごい速さで捨てられていく。
 沈殿物が覗いていた穴が、巨大になっていることにも気がづけないまま、会議室が暗室になる日、足並みは、途絶えた。

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