写真

写真になった父が 昔よりよく喋るようになった
弘法大師ゆかりの寺で ボロボロのジャンバーに
白髪を風に舞わせながら 少し笑ってピースなんかして
誰もいなくなる家を前に大丈夫、だというふうに
哀しく細い目を向けて 泣きそうなくらい優しく笑っている
そんな喋り方をする父を前に 私はどうしていいのか泣いてしまう
  お父さんほど私を放ち信じてくれた人はいなかった
  私が心配ばかりをかけさせて殺してしまった
いつ誰とでも帰ってきてもいいように家の周りのドブを浚え
畑には少しばかりの野菜を植え 庭の剪定をふらつく足でし
私の帰る家が笑われないように、居心地がいいようにと
黙って家を片付け掃除をして 帰らない子供たちを待つ父
  うすっぺらい写真に貼り付いたまま家のことなど
  饒舌に語ってみせる
  (どうだい、お前の四十年住んだ我が家の居心地は
左手のピースの指は二本
息子は家を出て行って 娘は家に帰らない
それでも立て続ける指二本、
育てた二つの平和は誇り
家を護る父の顔
仏様になってゆく父の顔
どんなに泣いても笑っても
見守っているよ、と父の顔

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