花             陸が海に消えるまで。

先生、私たちの昼間が消えていきます。
カレンダーに休日がひとつ、足りないのです。
青と赤の隙間に、数字のいち、が。
時計は、今、だけを、さしたがる、から、痛い。
数字が昨日と明日を覚えることを放棄したみたいに、
短針のいち、も、長針のいち、も、かみ合わない。
埋没していく、いちにち、いちにち、カチコチ、カチコチ。
 今日、先生に一編の詩もかけなかった。
あなたの人生に触ることができなかった私を、どうか赦してください。
私の胸のふたつの丘陵から海にくだる腹部、
水に浸った子宮へ、指をはわせると、
ころがってゆく先生のコトバを、うみなおせないまま、
潮は満ちることを忘れている。
 不浄な貝殻になっていく私の器に、
どうか先生の透きとおるまなざしを、注いでください。
桜の花びらの淡い動脈とか、スカートの裾をぬらした夕立のにおい、
茜空で燃えてゆく飛行機雲の行く末。
南中するアルデバランの赤い嫉妬、と、シリウスの雄弁な若さ。
そして、今日も夜が涙をこぼすこと。
 先生、感情に卒業できない子は、おぼれるしかないのですか?
去り行く思い出だけが美化されて身動きができずにいます。
私が眺めるすべての景色が幻ではなかったと、
記録を執ることをやめられないのは、先生だけが私に教えた授業でした。
 陸に上がったモノたちが砂の城を築き上げ、アイスクリームの棒に,
自分の、しるし、をつけたまま、かえってこない/かえってこない。
 (生きてゆくということは これから死をみとること)
 私は社会の授業も倫理の授業もきらい、
そういって、教室から飛び出し、裸足で幽霊に会いに行ったの。
だってみんな透明で綺麗で、きたないコトバをつかわなかったから、、、。
って、いったら、先生は笑ってくれたのに、
おかあさんは「モウ、コンナコトハ、ヤメテチョウダイ!」って、泣くの、
どうして?
 私には小さなおかあさんが、 海辺で、
自分のお城を造り始めているのが見えるのに。 ねえ、先生、どうして・・・?
 横たわる窓際に夏がきて、森から潮のにおいがします・・・
ねえ、どうし、、
 (疑問符は罪です。もう答えてくれる人はいないのに、ほしがる、のだから)
 先生は私の胸に手を置くと、
そのままひとさしゆびで私のカタチを、知ろうとします、
指、を・・・
  かなしい   
     笑顔・・・、
      
もう、
          
           愛しい/哀しい、、  
                     それ/だけ.。
          
        それだけ、で、
                、(かなしい/カナシイ。)
 つながれたまま息を止めてゆく、つむがれないコトバの上に、
貫かれてゆく、夢のつづきを砂浜につづる。
青い万年筆は、夏の亡霊の住処、あかい花が砂の城ごと波に浚われてゆく。
 
 あなたが愛したものは、もう一人の私。
わたしは、うたいつづける、さがしてみせる、
陸が海に消えるまで、陸が海に消えるまで。
              
              (手向けた花は、決して枯れない・・・

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