海を抱く

海を抱く
あなたが こぼす一粒の海
その海の深さを私は知りたい
あなたが今 眠れないで
泣いているのではないか
赤子のように泣きじゃくる 私の男よ
不眠の闇に
あなたは 私のなきがらを
視たのではないか
暗い空から降る不安を 撒き散らしながら
私の在処を探して あなたは海を流す
 
 ここにいるわよ
 水に游がせた言葉で
 やさしさを染み込ませ 隙間をふさぐ
 追憶の果て
 あなたに幾人もの女人が手をさしのべては
 泥濘に突き落としただろうか
遠くで赤子の 夜泣きがきこえる
月のない夜
すてられた貝殻の 海鳴りのように
あなたが 私を呼ぶ
 
 波打ち際には雨に濡れたままの貝殻
 暗い空からうち捨てられた 夢
 誰もがひとりであって独りでないこと
私はそれらを拾い集めて 空へ帰す
広い 腕が欲しいのです
いつか目覚める 生まれたての
あなたを 游がせたくて
私は 両腕で 海を抱く

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