世界に微笑

  世界に微笑
病院の待合室で
吼えまくる老女の悲命(ヒメイ)
で、本が読めない
苛立ちの後ろ側には
きちんとアマチュア精神分析者たちの指定席が用意されていた
子供はアメが欲しいとねだり
五病棟では甘い尿を蟻たちが待ち受けている
商談成立に足早に歩む医薬品セールスマンの声の高揚に追いつくためには
彼女のエフカップが必要だ
人は速さの違う時計を飼っていて
その連鎖作用が地球(せかい)を裏側から手回しする
思考が残酷な人生の支配者という結論をまぎらわすために
とりあえずバスの待合室に書かれた
 「S E X 」
の、スプレー文字に二本の縦線を入れて
 「S 田 X 」
にしたのに
まだ、どこかのバカヤロウが落書きした
 「プリンセスマンコー」
のイリュージョンに、笑いが止まらない

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リカちゃん人形

  リカちゃん人形
「どうぞご自由に触って遊んでいってください。
  その後は、元の所に片付けてください。」
デパートの一角のおもちゃ売り場に、なぐり書きでかかれてある看板のすぐ下で、私は、恐ろしい光景を目にした。
なんと、パンツ一枚で仁王立ちしているリカちゃん人形。
全くどこの変質者だ!どこのフィギュアオタクだ!
私は、リカちゃんに白地に小花の半袖のワンピースをを着せると、まじまじみながら、心の中で、
「これでよし!」
と、呟いた。
・・・途端、
「お母さん、あのオバチャン、ナニやってんの?あの人形触れるの〜?」
という五歳くらいの女の子が、私を、邪魔者扱いする。
・・・・すいません。変質者は私です・・・。
そそくさと、その場から離れると、自分はリカちゃんに振り向き、
 「君は、少女の夢であってくれ!」
 「決して、男のロマンになるな!」
と、またしても心の中で呟いて、おもちゃ売り場を後にした。
バスの中で揺られながら、
今日の私はなんて良い事を、したんだろう!
と、自分を褒めた。
家のベッドに横たわると、また違った感情に襲われた。
果たして、私は本当に良いことをしたんだろうか・・・?
リカちゃんの大きな豪邸「リカちゃんハウス」
父親のピエールは、外国籍の有名指揮者
両親は中睦まじく、美しい姉妹で、三時にはティータイム
たくさんの美しいドレスと靴で、高級クローゼットは、休む暇なし
王子のようなリカちゃんのボーイフレンドの、ワタル君
何不自由ない絵に描いたような貴族生活
女の子なら誰もが憧れる完璧な人形の国
でも
でも・・・
決してワタル君はリカちゃんとデートしても、
彼女のショーツを引き破ったり、
ましてや、リカちゃんに、カエルを裏返しにしたような体位をとらせたりはしないだろう。
せいぜい結婚したとしても手をつないで眠るだけで
「二人の赤ちゃんは、コウノトリがキャベツ畑でさらってくるのさ!」
なんて、キザなセリフを吐きながら、ほほえむだけの王子様
私は、昼間のデパートで、パンツ一枚で仁王立ちしていたリカちゃん人形の健気さを思い出す。
 「どうぞ自由に触って遊んでください!」
あの看板は、まぎれもないリカちゃんの叫びだ!
 「私を見てください。豪邸も、ステータスも、何も持たない裸の私と向き合ってください!」
リカちゃんは、人形からオンナになりたかったのだ。
弄ばれると知っていても、男の重みと熱さを感じたかったのだ。
少女がセーラー服を脱ぎたがるように
ミスドのフレンチクルーラーの甘さを知りたがるように
腕時計の針は、ずっと真夜中を指すように
彼女は祈っただろう。
人形の涙は、官能の味がする
仁王立ちの裸のリカちゃん
その姿は、少女が「春」に目覚める孤独の色だ
 
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自由詩 リカちゃん人形 Copyright 為平 澪 2009-06-06 21:56:07縦
 

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月神の涙

   月神の涙
月神の涙
海底に眠る君の体から透明な茎が
月に向かって伸びてゆくよ
月神(つぐみ)
哀しいけれど
お前はそれを見ずに
短い夏を逝く
お前が咲かせた花は
月下美人
儚さに背を向けて
薄明かりの部屋で
小さく悲鳴をあげたような花

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ノドボトケ

  ノドボトケ
この世には
恋の歌が多すぎる
あの世には
ノドボトケが唄うコトノハ ひとつ
だから君に
僕のノドボトケをあげる
あの時、巻き戻したかった言葉も
現実に瞼を閉じて噛み砕いた真実も
裏切られたと早とちりして流した涙も
解りあえた二人だけの賛美歌も
全部全部ここに呑み込んであるから
僕に嘘をついて悔やんでいるなら
この骨を少しかじって下さい
僕が言葉を発することが出来なくなっても
このノドボトケには
君の欲しかった無声の僕が
たくさん
たくさん
つまっています
もし僕がいなくなって
哀しくなったり
淋しくなったりして
眠れない夜には
ちょっと、かじり
ちょっと、かじり
してください
君は口下手な僕の本音をかじっては
笑っちゃうかも
呆れちゃうかも
驚いちゃうかも
トキメいちゃうかも
そして僕は
叱られちゃうかも
この世には
恋の歌が多すぎる
あの世には
ノドボトケが唄うコトノハ ひとつ
流行歌(ハヤリヤマイ)の「愛してる」より
君と紡いだ「恋」ひとつ
誰かの彼女(あなた)になる君へ
残せる物は
喉仏(ノドボトケ)

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ぬけがら

   ぬけがら
納屋の戸棚に
蝉の抜け殻をみつけてん
白くて透明やったから
多分ツクツクボウシやと
思うねん
昔な
授業中
先生の声が聞こえへんくらい
蝉が自己主張するのが
正直 うっとうしかってん
でもな
今 蝉の声
あんまり聞かれへんようになったやろ
なにが悪いんかようわからんけどな
この抜け殻の蝉も
今日はもう 死どんのかと思たらな
なんか私が 
ぬけがらになってしもうたわ

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パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間も一人遊びをしている子供がいた。
台車にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。
 どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。
「おばちゃん、コレ開けて。」
 ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの丸いボールの蓋を開けてと言う。
「ありがとう。」
 女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。
 夕陽は傾きかけていた。
‘‘この子の親はどうしているのだろう・・・。‘‘
そう考えていた時、それを見ていた私の母が、ふと
「あの子は強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」
と、呟いた。
 その時、女の子の母親らしき人が
「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!!」
と、女の子の手を引っ張った。
 その子は母親の大きなお腹をさすっては
「赤ちゃん、赤ちゃん。」
と、はしゃいだ。
 どうやら母親は妊婦らしい。
そして換金所で働く母の話では、毎月二回、土曜日曜は、女の子は換金所の前で遊ぶ。
「孤独に強い子になる」
 私の母の一言が、頭の中でリフレインする。
 果たしてそうだろうか?
今度は赤ちゃんが産まれるというのに。
赤ちゃんが産まれたら、母親は姉になるその子の面倒まで見れるだろうか。
幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければいいのだけれど。
 その子も淋しい。
 私も何だかやるせない。
 また、パチンコでしか満たされないその子の親すらも・・・。
 いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。
夕陽はもう、すでに沈んでしまったというのに。
 それでも少女は、自分にしかわからない唄を歌っている。
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散文(批評随筆小説等) 唄 Copyright 為平 澪 2009-07-25 05:28:53縦
 

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ハンマー

ハンマー
おいらの家は解体屋だから、難しいことはよくわからねえ。
 今日も親方に呼ばれて仕事をする。
 扉を叩いて壊す。
 瓦礫をトラックに積む。
 そうしているうちに、隣近所の女の子が一人、おいらに向かって喋りかけた。
「おじさん。おじさんは、どれだけの思い出を壊してきたの?その家にはある家族が住んでいて、犬を飼っていたよ。おばさんは陽気で近所の人気者、おじさんは大工で家を立てる仕事をしてたよ。その夫婦には子供がいて、子供はお嫁さんになって、また子供を産んだよ。本当に幸せな家庭だったけど、いろいろあって、この家を手放さなきゃいけなくなったの。この家のおじさんは出て行く前日、昔の思い出を語っていったよ。前の池でジャコ取りをした事、大工として腕が認められたこと、一人前になっておばさんをお嫁さんにもらって、この家を建てたこと、子供を産んで親になることの喜び、帰ってくる家の灯りのありがたさ。近所の人の温かさ、孫に帰る故郷のない事実の辛さ。自分の責任のなさ、それらをみんな言ったら、ただ黙って泣いていたよ。それがここの主人の最後の姿だった・・・。」
「・・・・・・。」
「おじさん。おじさんに家庭の事情とか、現実の厳しさなんていいたいんじゃないんだ。
 ただ、ただね。家って言うのは、居場所なんだよ。おじさんの持つハンマーは、それを知って使っているの?」
「・・・・・。」
「ごめん。責めてる訳じゃなくって、ただ、見晴らしが良くなりすぎて、私、とっても悲しかったの。
そして、知ってて欲しかったんだ。同じハンマーを持つ人間が壊すことも、創り出せることもできるという事を・・・ちゃんと、・・・知ってて欲しかったんだ・・・。」
 おいらには難しいことはわからねえ。
 今日も親方に言われたように仕事をする。
 ただ違うのは、右手のハンマーがいつもより少し重いこと。
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散文(批評随筆小説等) ハンマー Copyright 為平 澪 2009-07-25 06:03:30縦
 

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Author≫つるぎ れい

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雲行きは
やっぱりあやしい
夏の恋は
稲妻のように
私の心を痺れさせたまま
遠い子宮に隠れてしまった
私は
期待の灯火だけ
残して
今日も
独り
暗闇に沈む

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