爪紅

爪紅
思い出を欺いた朱印は
冷たい指先を恋しがって
月明かりの夜に
主のいない部屋で
紅の泪を
足先に残したまま
愛しさ事
剥がれてゆく

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赤い部屋

赤い部屋
微睡むことさえ赦されない
赤い電灯の下で
君の舌を引きづりだし
僕は口腔から僕を入れる
開かれた四肢は朱に染まり
君の中の僕が脈打つ
キャミソールドレスから
爪先から
唇から
肌から
はだけられ
晒された全てから
鼓動が脈打ち
君はピアノの鍵盤の響きに合わせて
流動体の赤血球を泳ぐ
蛇の館に一人
囲まれたカナリアは
泣き顔は見せず歌うだけ
湿ったのは這わせた指先ではなく
遠い雨の日の赤紫のアイリスの芯
誘ったのは君
暴きだしたのは僕
二人が赦していたのは
欺瞞と虚飾の愛の調べ
だから火を点けないで
薄闇の天井に
ポツリ酸素を請う
赤い電球の色彩のままで
独りぼっちの
暮れない夜の
過ちの朱印
文字のない部屋
空っぽの鳥籠
安らかな黒い柩
赤い孤独が滲む部屋

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アトランティス

アトランティス
アトランティス大陸には
化石にならない
私の夢が
沈んでいる
アトランティス大陸には
詩人も歌人も俳人も
知らない言語が
埋まっている
アトランティス大陸は
まほろば郷
探求者も研究者も
調査できない
宝箱
でも
私は知っている
アトランティス大陸は
沈んだの
沈んだっきり
浮かばない
だから
私は
隠したの
アトランティスに
私の夢とか恋とか希望とか
私にしかできない
誰かの事や
あなたの笑顔に
会うために
これから
見つける
もう一つの
アトランティスを

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薔薇食い姫

薔薇食い姫

薔薇をあげましょ 枯れた薔薇たち
ライバルくらいは 蹴り落としてよ
苦悶が溶けないの あなたのせいね
意志の疎通すらも まるで駄目ダメ
悲鳴を上げて降参 首輪締めて哀願
面倒かけ致します これから一生涯
積み木崩しは開幕 持ちつ持たれつ比翼塚
身を詰まされる愛  歌うわ怪人オペラ座で
放さないわ独占欲  離れないはの自己主張
泣き真似はお見事  だから君には嘘をつく
詩とお酒の筆力で  薔薇食い姫に罪はなし
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むすんで  ひらいて

むすんで ひらいて
結んで下さい
私の手首
あなたの知らない
仕事中のネクタイで
開いてください
心の扉絵
バースデーには
飛び出すビックリな
独占欲の交錯で
手を打ってください
誰とでも寝たがるような
私の性欲を
ワンルームへ
運んで調教
結んで下さい
十月十日
やや子が宿る
そのように

開いて
手を打って

開いて
その手を
その手で…

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おとぎ話

おとぎ話
僕は君を失ったらきっと狂うよ
オフィーリアの意識が浸透してくるベッドの中で
僕は夢見心地で君にささやく
「狂ってから、死のうか」
貴女のいない世界に一人
生きる強さが僕にはない
それではあなたを食べてあげましょう
彼女は言う
一生懸命一片の肉片も残さず
食べてあげるわ
「女郎蜘蛛」だね
あなたが言ったのよ
私のことを「けなげな女郎蜘蛛」だって
じゃあ、僕は食べられちゃうんだね
そうよ、あなたは誰からも好かれるから
誰にも渡さないの
重いな・・・君の愛は・・・
でもそれくらいの重い枷が
僕には丁度いい
でも食べたその後は?
そうね
あなたを身籠るわ
他の誰のところにも転生できないように
そして身籠ったその後は?
あなたを産むわ
そしてあなたはに私に恋して
激情の果てに壊れればいい
壊れて死んだその後は?
また食べるのよ
素敵だね
素敵でしょ
そう笑い合いながら
僕は再び彼女の体に滑り込む
彼女は幽妙な海底
色情の恋獄に僕を繋ぎ止め
味わいながら巧みに踊る
もう僕は戻れないほど溺れきっているのに
彼女のおとぎ話は終わらない

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愛は風化する

愛は風化する
君に何度も「愛している」「必ず幸せにする」
と、言っていたのに
僕は、今日死ぬ
空虚感に襲われた街で
遺言状をばら撒いたら
「チンケな広告なら間に合ってるよ!」とのあざ笑いが
頭上のカラスの糞と一緒に落とされた
聖人が
「地上に不必要な人間などいないのです。」
と、語るその名言こそ不必要
そんな言葉を鵜呑みにしたら
だらだらと煩悩の数だけ生きのびてしまうよ
坊主とて女遊びをする時代
気楽にそれを冗談にできるボキャブラリィなど
僕は持ち合わせていなかった
君に
「僕は今日死ぬから。」
というと、君は
「一緒に死にたい。」
という
多分それは予想していた答え
情死に3回失敗した三文物書きみたいにはなりたくなくて
「僕の息の根が止まるのを確認してから、君は死ぬんだよ。」
と、お願いすると
君は美しく笑って小さく頷いた
できれば僕の死体が無様であることを祈る
君に死への恐怖が訪れることを
僕への愛が嘘っぱちの空っぽであったことを
この猿芝居は一人舞台だったと
弱虫の僕が強がって飛び降りたグランドキャニオンの奈落の底
そこから僕には記憶がない
ただ君が、僕の知らない誰かの横で
花のように笑っていてくれたらと思う
遺言状は漫才のネタになるが
僕を、ねぇ、もし僕のことが
君の中で風化するなら
僕の肉体が砂塵になり
君の目に入った時は
「あれ、なぜ、泣いてるのかしら?」
と、彼氏の前で思いっきり笑って見せてくれ
激しい蜜月の形見を弔いに
愛は虚空を彷徨い続け
やがては
思い出と共に風化する 

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デメテル

デメテル
デメテル
髪長く麗しき女(ひと)
豊饒の女神
冥界に愛娘
攫われ墜ちて
冬きたらするは
哀しみのデメテル
愛娘
柘榴の実一つを
喰はざらましかば
我はこの世に
冬を創らましや
彷徨える荒野に二人
娘と共に
風に吹かる
我が元を去りし
娘は還らず
しからば娘の
春帰りきたらむを
アイリス畑にて
我は待たなむ

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冬の温もり

冬の温もり
真夜中は二十五時まで氷点下
氷柱が貫く私の心臓
君は腐らないように
冷凍室に入れて
電子レンジでチンをする
温かい君の部屋で
鼓動は再生し
私はもう一度
あの春を待つ
冬に埋もれないように
君にこの焼きたての
モツを差し出す

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私の指紋

私の指紋
鳴門の渦潮よりも
精密に深く渦を巻き
赤い血潮に指先は灼かれている
それは不解明の暗号の記録
誰かが緻密な大河のくねりを
第一関節に残していった
足に張り付いた
メイプルの葉脈でさえ
個性の背筋を伸ばしては
掴み損ねた太陽に灼かれて
色鮮やかに染まり
温かさだけくるみこんで
去りゆく晩秋に手を振る
ひとひらの雪でさえ
違えた結晶を分け与えられ
手のひらの温度差に気を失って
微睡みの涙を浮かべる
私の指紋
神世の時代から
とうとうと湧き出る霊(ち)の潮(うしお)
西国浄土から授けられた那由多の葉脈
業の流転の刻まれた結晶が指先に
今世の運命ごと譲られた命の脈流
乾杯
奇跡の軌道の模様の親指
青空に立てて私の拇印
空は私の所有物になり
私は毎日違う夕日を朱印で飾る
命の営みに産声を聞いた日から
筋違いのシナリオを
私は包括し
己の渦を
渡る

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