ましろき月を紅に

ましろき月を紅に
切り取られた枠の中
微笑する貴女よ
夜々に言葉を降らせ
あらゆる星々を従え
寂寥の渦から
零れるは月の雫
笑顔の下に隠されし魂の旋律を
赤い媚薬に変えてくちづける
柔和なましろき肌に
刺青を施すように僕は愛す
刻印を受け貴女はのけぞる
火照る傷口
指先 爪弾く肢体
貴女の狂態
魂の戒め
刻印に成婚の証を
あらゆるスティグマを
貴女の痕に残し
解読出来ぬ夜を抱いて
今宵 鏡台に浮かぶは
紅に染まりしましろき月

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時経てば・・・・

時経てば・・・・
時たてば過ぎゆく人の無情さよ知りつつ恋を望むは愚か
人恋しい恋し人らを捨ておきて我はゆくなり自分の道を
指先で孤独をなぞり泣き明かす私は女哀れなくらい
さようなら疑似恋愛のおつもりで遊ぶのならば我に暇なし
時たてば春は来ると言うけれど凍える閨に春 便りなし
過ぎゆきて振り向くことも無い人とわかっていながら信じた嘘たち
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すべてが砂に埋もれても

すべてが砂に埋もれても
満ち欠けする
嘘月に
惑わされるように
濡れた秘め事は
夏の日の線香花火
あなたの後ろを
追いかけてきた
私の足跡が
深海に眠る貝に
なりはてても
一方通行の恋の標識
私の墓標を
覚えていてください
全てが砂に埋もれても
記憶が灰になる日まで

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倦怠と微熱

倦怠と微熱
春雨の憂いにも似た倦怠が 濡らして止まず 強請るくちづけ
行間の隙間を指でなぞりつつ あなた探しに 開いた詩集
花曇り 繭に覆われ うずくまる 私は小さな地球の小部屋
車道すら 見捨てられた 線定規 棒線グラフに 収まらない道
鏡台に映った夜が続く昼 紅いルージュは寂れた小箱へ
日は暮れて タイムオーバー ゲームオーバー 私はひたすら歩いたメロス
大声で叫んだ恋を 拾っても 粉々に潰す さよならの君
誰のために 詩をよむ意味に 迫られて 息苦しさにあがいた私
惨めさと薄っぺらさと 儚さと 足して二で割る剥離する脳
書きかけの文字がゆらゆら 立ち上り 青空からは私の溜め息
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ボディーペイント

ボディーペイント
私は身体に
金色の蛇を飼っています
嫉妬の流動体が
這いずり回る
未練と栄光だけが
支配する半身
私は紫の鱗の分だけ
秘密を持ちます
爪先形の秘密たち
肌を締め付けこびりつき
過去の恋を
絞り出そうとする
私は表情を隠したまま
唇を閉ざし
誰にも知られぬよう
あなたを
アドレナリンから
追い出そうと足掻きながらも
滲み出る
終わった沈黙の夜を
数えています
私は上手に苦悩する
だから
あなたよ
描いてください
鮮やかだった
過去を私に

詩と思想五月号佳作作品

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調律

調律

曲がりくねったト音記号を筆頭に
平行線は果てしない
追いつけないダブルシャープ
デクレッシェンドが
ゆるやかに
あやしてみたり
フラットに なだめられたり
頑固な全休符は
ポディティブな七連符と
相性がが合わない
沈黙の深みを教えようとしても
生まれついての八分音符
サッサと転がり
逃げてゆく
平行線に並べられた
ひとつひとつの個性たち
ひとつとして無駄はないのに
噛み合わない不協和音の楽譜を
ただ眺めながら
黒く塗りつぶされた
記号の群れを指でなぞり
歌えないプリマドンナ
声が出なくなった頃
ト音記号の歪曲さ
今更ながらに
思い知る

詩と思想五月号佳作作品

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歯車が狂うように

歯車が狂うように
歯車が狂うように
詩をつづる
ペン先から漏れてく私
棺に文字を入れられて
喋りすぎる言葉の茎が
耳元から伸びゆく
咲いた向日葵が
うなだれて
私の顔色を伺いながら
土色に染まる
私は静かな雨音に
消されて逝く
去りゆく人々の骨を
拾う
墓標
詩人の墓に
添えられた言葉は
喪失
ひとつひとつの
歯車が狂うように
詩人の運命は
張り詰めた
ピアノ線
一筋の音色しか
奏でることを
知らない

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波紋

波紋
路地裏の企み
過労死する
サラリーマンに集る
マスコミ
埋蔵金の謎解き政治家
原発の隠蔽科学者
たかが日本
されど我が国
出てゆけない自分に
破門
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生と死の狭間に濡転がって

生と死の狭間に寝転がって
日が昇り ラジオから流れる 放送を 掻き消すような 草刈りの女(ひと)
青空に 快晴と描く 正直さ 登校生徒に 割けない時間
山裾を 目にしてみれば 若桜 季節の軌道に遅れた私
洗濯や 布団干しに 追われても 私の今は 誰にも負えない
光射す 汚い部屋にも 光指す 埃にまみれて 質問された
毎日を安穏と暮らす私など 鬼と罵れ 東北の人
窓からは 夕暮れ見えます 茜空 多くの犠牲を 払った空に
生きてきて 沢山友人 死にました 動けぬ私を 責める魂
水いっぱい 飲めない人と同じ血が 流れていると 知りたくない夜
年取れば 夢を描くなと いう人の 夜の予言を キャンバスに描く
さようなら 何もしないで暮れる今日 おやすみなさい 明日も振り出し
お前など 死ねばいいと 呪詛の札  明け方までも響く嬌声

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感情

感情
入り込む海に
渦潮が逆巻き
碧い涙を
凌駕する
満月には
満たされ
新月には
干からびて
嘘月の賭博に騒ぎ立つ
鼓動の狭間
満ちたり
欠けたり
満ちたり
欠けたり

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