君は僕に女になれというのか
着物に白い足袋と草履を添えて
君は僕に女を魅せろというのか
胸の重みを感じて
泣けと
君がみた
春画が僕だ
君の詩集の
あ、ふれる
の文字が僕だ
僕を見る君の眼鏡は
赤外線装置付きの
魚眼レンズ
もう
知っているよ
君に裸を
晒して歩いたことも
君が風になって
撫で回した指も
でも
僕は中性
忠誠を誓った人にだけ
僕は女装できるんだ
名前
同じ夕暮れをみていても
もう同じようには
見えないのは
目が人に 二つ
あったからだろう
その片目同士に
光と逆光の速度で
墜ちて逝く夕日を
僕たちは
【綺麗だ】という
形容詞で簡単に括って捨てる
笑っていても笑っていない
視線の路地裏の店を
さすらえば
君のお腹の中に
贅沢な珍味たちが
放り込まれていたのを
僕も一緒に
漁っている所が見えた
同じものをみていても
綺麗と綺麗事の
区別のつかないような愛に
名詞をつけるなら
ヨルと闇
くらい、の
覚悟
悪意の道先案内人
良く思われたいからの
ひとことが
言われるままに都合よく
放り出されたので
世渡りの処世術を見破った
頭も目も逆さまだったら
月は夜
ひとことに 愛の錬金術を覚えただろうか
私の文字や言葉が
鏡に曇るのは
鏡に裏表があったから
かもしれないし
また
私がもともと
曇った顔つきだったから
映ったまでのこと
ひとことで傷ついて
他人事で大火傷
せっかちな詮索好きの前頭葉
ひとことで片付ける
手間要らず
バランス失う後頭葉
アンバランスな距離と溝
温度は棲めなかったと
泣き去った
ひとことの先の
めんどくさいが被害妄想に
ちょっかいだして
目があえば
会うたび毎に
鬼が笑って
ひとこと先の地獄行き
一寸先に詩が笑う
【あ、いたい。】
宇宙の孤独が理由をつけて
詩人や芸術家や思想家に
淋しさについて
夢想させると
男は全て叡智に滅ぶ
宇宙は嘆き
その哀しみを
女に託し
愛しい愚かさを与えると
全ての女は炎になった
怒りは人を殺し
孤独が人を殺し
心はビッグバンを
おこしながら
やがて知恵と
手を結び
初めての軌道を渡る
新星が 宇宙の孤独に
光を差し込む
その輝きが
あなたとわたし
シンパシィする
空のよろこび
海のかなしみ
この惑星の
男と女
愛、痛い、する
心と心
詩と思想2013年四月号・現代詩の新鋭特集号掲載原稿。
はぐれる
それをして楽しいですかという人に楽しいですよという寂しさ
暗闇に電球の灯りひとつだけ世界に響け携帯の指
悲しみを足しても割れぬ性格を瞳を閉じて飲む錠剤
悴んだ指先ひとつ燃える火を怒りと呼ぶな号泣と呼べ
朝が来るいつものように朝は来る起きてる夜に私は亡霊
静寂に包まれ身体はコチコチと骨を削る音(ね)時計コチコチ
うまくやれうまくやれよとよわたりをうらもおもてもあるいてわたれ
置き時計短針長針ずれてゆくそんなふうにはぐれ外され
僕の声叫んでみても憎しみが飛び出すだけの冬の空き部屋
携帯を濡らす
あなたの為に携帯を濡らす
秋の力ない弱い日差しから
聞こえるあなたの
柔らかで 穏やかな声が
枝枝の葉を 全て色づけて
あとは 風に散りゆく運命を述べたから
あなたのいなかったモノクロの世界から
この世界の美しさを 文字で彩って
私に言葉に直して 声に出してくれた人よ
あなたが 時の風に連れ去られても
同じ木に寄り添った
葉たちのことを思い出して欲しい
まだ
残響するあなたの
穏やかな哀しい非命に
携帯の画面を濡らすことを
赦して欲しい
この携帯が あなたの墓標
もう だれにも
あなたを見せたくはない
わたしは 涙に濡れた
ディスプレイを閉じて
平らな器に 水を貼り
静かに 携帯の
息をとめるように
あなたを 沈める
抒情文芸 146号 春
清水哲男 選
入選作品