40年来の友人・中本道代さんの新詩集「風に鳴る山」(思潮社)が3月末に出版されました。私は丁度個展が終わり、新しいキャンバスに下塗りを始めたところでした。冒頭の詩「龍の髭」に衝撃を受け、ぜひ紹介させていただきたいと思いながら、次の個展の構想に目処をつけるまでは、と我慢していました。
「龍の髭」は我が家の北の庭にもあります。白い花を咲かせ青い実がつく小さな常緑の草です。それを巨大な空間と時間の中に置いて、こんなにも寂寥感が漂う、、、多分世界を主観的に、かつ客観的に見る人だけに現れてくるものではないだろうか。
そう思いながら私も励まされて、次へと出発します。
「龍の髭」 中本道代
山が立ちふさがり
山の向こうのことはいつもわからなかった
雨が降ると山全体がけぶり
大昔からけぶってくるようだった
泳ぎに行けない日は
廂の奥深く隠れている一人一人
生きるとは待つことか
雨がやむのを
明日を
十年の後
千年の後を
農具は納屋にきちんと立てかけられている
一つ一つの形の違いがそうあることの誇り
そんなことも知ろうとはせず
身近にいた
アリジゴクの寂寞
羽化する日の山河の華やぎ
猫が失踪を遂げる
病む主人から遠く離され
山峡に置かれ
山が立ちふさがり
山から降りてくる霧の粒に足を濡らして
リュウノヒゲの根もとに潜む青い実を探していた
