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2009年05月31日

五月ともなれば

五月ともなれば


雨が降っても木は香り
雨のなかを歩けば別の木は別の香りを放ち
晴れた日には家をあけ放ち
歌姫を呼んでみる

歌姫は砂漠で焦げつくような恋歌をうたっている
湖の底に舞い降りて湖を揺り動かし
海のうえを軽やかに歩き
空とぶ歌をうたっている

歌姫よ 歌姫よ
世界が壊れているというのに
あなたは恋の歌をうたっているのですか?

わたしは未知のひとに恋しているのです、と歌姫はいう
わたしはわたしを待っている多くのひとびとに
歌を届けなければなりません
わたしのうたがあなたに本当に届いたなら
今日だけはなにも起こりません
ひとは歌に夢中になるからです、と歌姫はいう


それから わたしはコンピュータのなかの
盲目の青年の歌うたいに来て貰う

なんとパワフルな、なんと美しい声だ、というひとがいる

どうしてこの青年に何万人というひとが集まるのだろう
この青年があたたかな声で愛の歌をうたうと
わたしたちのなかに愛のきれいな太陽が昇っていく
わたしたちにもこんなに愛があふれているのだと驚く
かれは目が見えないけれど わたしたちのきれいな愛の太陽を
見ることができるにちがいない、というひとがいる
そうして あの青年の歌をたくさんのひとが聴きに
やってくるのだ

こんなにあふれるほどの愛があるのに
わたしはなぜあんなに悲しかったかを思い出す
いつの頃からか
世界が壊れつづけていたから


五月ともなれば
雨が降っても木は香り
雨のなかを歩けば別の木は別の香りを放ち
晴れた日には家をあけ放ち
歌姫と青年の歌うたいを呼ぼう
世界をあたらしくつくり直すために

投稿者 yuris : 2009年05月31日 16:57

コメント

はじめまして。

すごく印象に残りました。

読めて良かったです。

投稿者 hide : 2009年06月13日 01:18

ありがとうございます。

とってもうれしかったです。

投稿者 aoiuem : 2009年06月14日 01:03

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