« 怖いはなしの語り | メイン | 無限大に余白 »

2011年07月31日

八手

     八手
          弓田弓子
  
 地平線に向けて願い事が多く合掌するてのひらの
 指が増えて八手に成長していく この八手をどう
 するべきか 八手の葉を切り落とすくふうでじっ
 とかれらをみつめるものだから 葉の先が変色し
 てきた 葉の中に震える人物が潜んでいるかのよ
 うに ときに物音を立てる葉に出会い 驚かされ
 るがここには長い年月だれも潜んでいたりしない
 葉の中のだれかを救いだすために 入り組んだそ
 の道筋などたどってみたが やはりここにはだれ
 もいないのだ

 八手の葉を切り落とせば落とすほど柔らかいしわ
 くちゃな 小さな赤子の手を密かに増やし 深い
 家族の かたい葉のかたまりを守るためにいっそ
 う葉の指を広げ中味を覆っている 黄白色の五弁
 の花にまでたどりつけずにそのまま腐っていく柔
 らかい葉を 激しい日差しを避けて かれらは互
 いにあおりあおり ぐったりしたまま陽が落ちる
 までろうどうしている 葉の陰で 炭酸同化作用
 を調べているとかれらの広げたてのひらが更に指
 を増やしていく

弓田弓子さんの詩はいつも魅力的だ。ひとくせもふたくせもある。思いもよらないところからぬっと手がでてくるようで怖い。ごく身近な媒体からとんでもない異空間に連れ去られるのだ。ちょっとどころか多いに不気味だがやさしさがある。怖いものみたさかな、弓田さんから詩誌が送られてくるとわくわくする。「八手」は『ゆんで』3号から。

投稿者 eiko : 2011年07月31日 17:19

コメント

「八手」のなかに潜んでいるドラマは、そのまま人間界のドラマに移行できそうで、それを映しているようで、怖いし、良い意味での毒を含んでいました。わたしもまた、弓田弓子さんの世界に強く惹かれるひとりです。

投稿者 青りんご : 2011年08月01日 05:33

コメントしてください




保存しますか?