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2011年07月18日

ハハとねことあぶら蝉

 一昨日の続きだが、「からだの声をきく」をテーマにして書かれた作品はどれもおもしろい。女性ばかりなので男性と比較できないのは残念だけど、1篇紹介したい。 

   ハハとねことあぶら蝉
         岡田清子

 ハハはともだちのおばあさんのおくやみにでかけ
 台所の床にはりついていた
 まっくろなねこをふんでころびました
 ねこは
 にゃおとないたからだいじょうぶ
 ふにゃとしてなまぬるかった
 などといいながら
 ちかごろ目がわるくなってと
 眼鏡のしたからちいさな目を
 こすってみせました
 ハハは秋になると八十才になる
 妹は
 七年前さくらの花びらのなかに笑うように
 両手をひろげていってしまいました
 からだじゅうの毛あなから水がこぼれ
 タオルをあててもあてても
 水はだまったままするすると通りぬけて
 私の手をぬらしました

 あぶら蝉がバランスをくずして
 地面におちてきます
 手足を胸にたたんで
 死んだまねをして
 まねをして一日たって

 ハハは足の裏にねこがひっついている
 ともう一時間
 足をあらっています
 あぶら蝉をふんだことは
 まるでおぼえてないのです

投稿者 eiko : 2011年07月18日 22:45

コメント

確かに、既成概念に縛られた脳内で出した声ではなく、ひとつのいのちとして、ほかのいのちに向き合ったような感じの、まさに、からだから発せられた声として、とても面白く読ませていただきました。

投稿者 青りんご : 2011年07月19日 06:48

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