« Paradise 中本道代  パラダイスへの道 | メイン | 「ぶどう畑のように」羅喜徳ナ・ヒドク たたずまいのある詩 »

2009年03月29日

「エッグスタンド」蟹澤奈穂  瞬間の人生ドラマ

エッグスタンド      蟹澤奈穂


静かな午前の光のなか
白い卵の殻を
スプーンでかつんとたたいて
あなたは
何かを聴き取ろうとして
耳をそばだてる

聴くんだ 遠くから響くあの音を
ここがどんなに穏やかでも
泡立つ波に風が吹きつける
あの 嵐が生まれた場所のことを
きみは 思い出さなければ
いけない

たくさんの街をとおって来た
広場で 大声で叫んでいた人びとのように
みんなに加勢することはたやすいがね

大切なことは
孤独をわすれないようにすることだ

たったひとり
心の奥底に降りてゆけ そして
嵐吹きすさぶ場所を
思い出せ

それから
耳をすませて聴くがいい あの
止むことのない
風の音

そしてふいに あなたは

エックスタンドを
倒す


                      ※


 わかりやすい詩だと思います。それはこの詩が私の前にすくっと立って何のごまかしもなく、こちらを向いている気がするからです。

 この詩の一つ一つの言葉はよけいな飾りや気取りがなく、それが私にはとても気持ちよく感じられるからでしょう。

 同時にこの詩の強さも感じられます。その強さは幼い頃から、この詩人がずっと持ちこたえている純情
さかも知れません。

 それと、もう一つ私はこの詩に独特のユーモアというか、ゆとりのようなものを感じます。それは<白い卵の殻を スプーンでかつんとたたいて>ということは<かつんとたたかれたのはわたしの頭のような感じがしました>とか<あなた>と<きみ>がわりあい無雑作にいれかわったり、しかも言ってる相手は<あなた>や<きみ>ではなく、自分のように受け取れます。

 その曖昧さがこの詩の内容にくらべて、何かしらゆとりのようなユーモアを感じるのです。

 おしまいに<そしてふいに あなたは  エッグスタンドを 倒す>と読み終わると、一分間のひとり舞台を見たような感じがします。それは詩としてはユーモラスであり、ゆとりであるような感じがするのです。

投稿者 yuris : 2009年03月29日 15:51

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

コメント

コメントしてください




保存しますか?