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2013年11月18日

「なだ いなださんを偲ぶ」台峯歩き

 昨日の小春日和の穏やかな日曜日は、今年6月に亡くなられた「なだ いなだ」さんを偲ぶ台峯歩きの日でした。いつもは20名前後なのに45名ほどにもなり、歩くには少々大勢すぎましたが止むを得ないことでしょう。この台峯歩きは、なださんが立ち上げたものです。最初の名称は、「なだ いなだ と台峯を…」と付いていたはずです。
 この辺りが開発されるという話を聞いて、近くに住むようになっていたなださんがそれは大変だと、声を上げられ、その許に有志や土地の人たちが駆けつけたのが15年前、開発をストップさせようと、台峯トラスト運動の一環として、その年の11月から、毎月一回皆で歩こうという事になったのが始まり、今回で181回、延べ4000人ぐらいが参加したとのこと、これら数字は昨日の偲ぶ会でM理事の話からの紹介。(私は、なださんがほとんど出てこられなくなってから参加しました)
 ひところはもうダメかと思われた時もありましたが、世の趨勢もあって2004年12月にここの保全が決定。これで願いは叶ったのですが、現状のチェックのためにもとこれまで通り続けられているのです。
 「偲ぶ会」を兼ねた山歩きですから、はじめの1時間は、会長や理事や案内者の話や参加者の思い出話などに当てられました。そこでの話、裏話をちょっとしますと、実はなださんは、あまり山歩きが好きでも得意でもなかったのではないかとのこと、というのも、かなりの年齢になっていたこともあるが山歩きは下手だったとのこと、倒木がくぐれなかったり、木道では滑ることが多く、でもそういう事を見ればかえってどういう風に山道を整備すれば良いかの参考にはなった(笑い)など、しかしそういう不慣れな苦手なことに年を重ねても飛び込もうという、その勇気にかえって感銘を受けたとも。
 また なださんが立ち上がってくださったことで、この台峯が世に知られるようになり、保存への道筋もつくようになったのは事実でその功績は大きいと。というのもここは名所旧跡があるところではなく、ただ昔ながらの尾根や谷や沼があるというだけの土地、(しかしその何でもない風景こそが今になっては大切なものという事が私たちにも分かる時代になった)、それになださんの名前が冠せられたことでスポットライトが当てられ、いろいろな人や知恵も集めることができたのでした。
 またこの会は、よくあるような山歩きの好きな人だけが集まるというような、同好の士の会ではなく、また会員としての義務も制約もない、ただ月の第3日曜日に、歩きたい人がただ集まって(会員でなくてもいい)歩くだけの、非常に自由な今の言葉でいえば「ゆるーい」関係の集まりで、これもなださんの姿勢に通じる所があるかもしれません(なださんは陸軍幼年学校で学ばされた反動としてフランス文学へ傾倒した)。 また開発反対と言ってもプラカードを掲げて闘争するのではなく、ただその地を歩くだけの地道な抵抗、これもなださんが最も嫌った権威や権力(『権威と権力』岩波新書)への反抗の一つの姿でもあるでしょう。とにかく医者としても、常に患者という弱い立場に立ってものを観ようという姿勢が人をひきつけると同時に鋭い文明批評ともなり、共感を呼ぶのだと思います。
 なださんは、晩年「老人党」を立ち上げ、弱者が暮らしやすい社会づくりや平和を訴えたが、面白いことに台峯歩きのコースで尾根筋で一番見晴らしの良い場所(皆で一休みするところ)を通称「老人の畑」というが、これも何だか両者通じているのであった。
 その上に、最初にこの台峯は、名所旧跡があるわけでもなく、何でもない風景だと言ったが、これもなださんのペンネームに通じているようで、今では不思議な感じがしてくる。「なだ いなだ」というのはスペイン語で、「何もなくて何もない」のだそうですから。
 10時ごろから大勢でぞろぞろ台峯に向かった。今日はほとんど見るような花はなく、ノイバラ、ムラサキシキブ、ノブドウ、スズメウリ、ガマズミ、などの小さな草や木の実が見られるだけであったし、蝶も越冬するキチョウやルリタテハなど。少々急いで正午過ぎ出口に至るが、その挨拶にこれからもどうぞ台峯歩きに参加をと言いながら、実は観察しながら歩くには4、5人が一番いいし、せいぜい20人まででないと…いう言葉に皆は苦笑。矛盾しているがどちらも本音ではある。

 なださんは、がん宣告後もいっそう精力的に仕事をし、あと33冊は本を書きたいと述べている。これは遺稿集となった最後のエッセイ集の「まえがき」にあり、その著書の題は『とりあえずきょうを生き、明日もまた 今日を生きよう』で、ラテン語のCarpe diem (その日を摘み取れ: ラテン語)を具体的に表現したものである。ご自分でもこれは、まさにハイ状態だと仰っているが、このメッセージを私もしっかり受け止めねばと思った。


 

 

投稿者 kinu : 2013年11月18日 13:59

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