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2012年09月27日


私は赤いハイヒールと、仮面を着けてワルツを踊っていた。
男は、ずっと私をリードしながら テンポ良く
ワルツの足運びから、姿勢、目線、腕の置き方から
全て優しく教えてくれた。
いや、この場合い、教え込んだと言うほどに
長い時間、男と踊っていたのだと思う。
舞台は、高層ビルの最上階にある灰色の屋上だ。

男の顔は見えない。
私から見えるのは優しい声の下に秘めたように時折顔を出す
チロチロと地獄草紙の炎のような舌と
首筋にかかる男の妖しい息遣いだけだ。

首から下の裸身は程良い汗をかいていて胸板が月に照らされて
なまめかしい臭いを放っていた。

くるりくるりと大きな円を描きながら、リズムよく
二人のワルツは流れる。

男は自嘲的な声で私にこう囁いた。
僕は君の仮面の下を知っているよ。
でもそれを言い当てれば君は僕を殺しにくるだろう・・・。
そう言いながら、あの蛇のような舌を私の中に差し込んで絡みつかせた。

私は仮面を取ろうとした、苦しい、息ができない、そして熱くて激しい。
私の舌は男の口に吸い取られるように、飲み込まれようとする。

もう・・息ができない、このままこの儀式が続けば、私は死んでしまう!

私は男の舌を噛み切った。絡み合う唇の中で
イチジクの実が裂けたような味だった。

男はもつれる舌で言った
君が君の探し物を見つけるまでは僕は君に殺されない。
そして君は僕に殺されるように愛される と。
男は言い終わると屋上から身を投げた。

私は一人で上手に踊っていた
男が教えたステップで 男の舌を味わいながら
ずっと ずっと 上手に踊れるようになっていた。

     *        *

賑やかな音がする。 夏祭りだ・・・。
アイスクリームを買ってくると言った彼氏がいなくなって二時間。
私は人に揉まれ人混みをかき分け、彼を必死で探した。
新調した白い浴衣とピンクのあじさいは転んだ時に色を変えた。
顔は泥だらけになって彼を探した。
いつしか私はしゃがみ込み声を上げて彼の名を、叫んだ。
私の喉はしゃっくりをあげカラカラに渇いていた。
膝頭からすりむいた赤い血が塩っぽい涙を零してじわじわと沁みた。
赤い鼻緒の下駄は 片方なくしたまま片足は裸足のままで
彼のために小さく結った髪も、ばらばらと半分顔に垂れ下がり
私の着飾った想いとは裏腹に、道行く人の失笑が
ますます私を惨めにさせた。
ふと緩くなった帯留めの下に隠していた鏡をのぞくと
そこには、恋に破れた小さな「魔女」が泣いていた。

探しても探しても彼は来なかった。
ほどける金魚のような自分を引きずるように
泣きながら独りぼっちの家に帰る
恋しかった 会いたかった 
最後まで傍にいてくれると信じていた。

    *         *

高台からそんな私の姿を見つめて笑う男がいた。
彼はずっと見つめていたのだ。
真っ直ぐ自分だけでいっぱいになってぼろぼろになってゆく
私を、この大勢の人混みの中でも真剣に見ては微笑んでいたのだ。

そして一言
なんて君は素敵なんだろうねぇ
僕が望んでいたのはそんな風に泥にまみれて綺麗になってゆく君
僕のために血を流し傷ついても僕を探す君だよ
あぁ、そんな君をずっと探していたのは僕の方かもしれないのにねえ・・・(笑)

投稿者 つるぎ れい : 2012年09月27日 22:10

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